企画 ー雛祭りー
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河原を眺めていた私の背後に、下駄の音が歩み寄る。
「海外を飛び回っていた貴女には、ここでの生活は詰まらないですか」
「案外そうでもない」
「良かった。どうぞ、さっぱりしますよ」
「ありがとう」
草を踏みしめ私の隣に来た店長は私に炭酸飲料のペットボトルを差し出す。栓を開けると軽い音と共に爽やかな香りがした。口に流れ込む刺激は本当に溜息と同じ二酸化炭素なのかと思う程若々しさを孕む。
土手にはボケや、菜の花が咲き始め、草も青々としている。ほんのしばらく見ないうちにーー思わず呟く。
「とうとう、春がやってきた。実に綺麗じゃないか。どこから来たのだろう」
「こりゃ意外、横光利一ですか」
「私は好きだよ。死神様もご存知とは意外だ」
「若い方にはアレかもしれませんが、アタシも好きですよ。病床の弱りゆく中で己の心を持て余す妻の介護に苦悩する夫の話。人の本質に触れながらも最期はやたらドラマチックで」
「ああ、私もそう思う」
「おや、いつもの皮肉はやめたんですか」
帽子の下から私を観察する視線。菜の花は風に揺れる。
「三者面談で進路について家族で相談するよう担任に言われた。織姫は就職すると言い切ったが、先生は進学を進めたよ、出来がいいからもったいないと。……成長した。気遣いもできる歳になっていたんだな」
「一般的に子どもの成長は早いものですよ」
「見違えるように成長した。大人になる準備はもう出来ている。子どもでいて欲しいと思うのは、私の我儘だ」
「けれど今年いっぱいは貴女は保護者で、井上サンは貴女の庇護の対象だ」
「さぁどうかな。あの子の三天結盾は私より余程強い」
口の端を歪に上げる。私の足元はスニーカーだ。一緒に住む祝いにと、織姫がお揃いで買ってくれた。ヒールよりずっと走りやすく、そしてーー戦いやすい。
「貴女も心を持て余しているんですか?」
「さぁな」
「この1年、彼女が大人になる最後の時をゆっくり待ったらどうです。貴女も鍛錬が必要だ」
「仰る通りだ。小説の夫の様に泣くのも妻のように己を持て余しスイトピーに蒼い顔を埋めるも、まだ早い」
私は彼の正面に立ち、逞しい胸を拳で叩く。
「鍛錬を頼みたい。私は生きたいんだ、喜助殿」
彼はニヤリと笑った。
「待ってました」
ーーーーーーーーーーーーー
こちらのお話は【 whimsy room 】の銀木セイ様との『創作力を上げよう企画』です。
(銀木さまのひな祭り企画が掲載されているページは こちら )
銀木様が書かれた【 桃色に染めて(銀時夢)】から、花、卒業、成長、大切な人の成長を待つということ等をテーマとして使わせていただきました。
ぜひ上記作品もお楽しみ下さい。
「海外を飛び回っていた貴女には、ここでの生活は詰まらないですか」
「案外そうでもない」
「良かった。どうぞ、さっぱりしますよ」
「ありがとう」
草を踏みしめ私の隣に来た店長は私に炭酸飲料のペットボトルを差し出す。栓を開けると軽い音と共に爽やかな香りがした。口に流れ込む刺激は本当に溜息と同じ二酸化炭素なのかと思う程若々しさを孕む。
土手にはボケや、菜の花が咲き始め、草も青々としている。ほんのしばらく見ないうちにーー思わず呟く。
「とうとう、春がやってきた。実に綺麗じゃないか。どこから来たのだろう」
「こりゃ意外、横光利一ですか」
「私は好きだよ。死神様もご存知とは意外だ」
「若い方にはアレかもしれませんが、アタシも好きですよ。病床の弱りゆく中で己の心を持て余す妻の介護に苦悩する夫の話。人の本質に触れながらも最期はやたらドラマチックで」
「ああ、私もそう思う」
「おや、いつもの皮肉はやめたんですか」
帽子の下から私を観察する視線。菜の花は風に揺れる。
「三者面談で進路について家族で相談するよう担任に言われた。織姫は就職すると言い切ったが、先生は進学を進めたよ、出来がいいからもったいないと。……成長した。気遣いもできる歳になっていたんだな」
「一般的に子どもの成長は早いものですよ」
「見違えるように成長した。大人になる準備はもう出来ている。子どもでいて欲しいと思うのは、私の我儘だ」
「けれど今年いっぱいは貴女は保護者で、井上サンは貴女の庇護の対象だ」
「さぁどうかな。あの子の三天結盾は私より余程強い」
口の端を歪に上げる。私の足元はスニーカーだ。一緒に住む祝いにと、織姫がお揃いで買ってくれた。ヒールよりずっと走りやすく、そしてーー戦いやすい。
「貴女も心を持て余しているんですか?」
「さぁな」
「この1年、彼女が大人になる最後の時をゆっくり待ったらどうです。貴女も鍛錬が必要だ」
「仰る通りだ。小説の夫の様に泣くのも妻のように己を持て余しスイトピーに蒼い顔を埋めるも、まだ早い」
私は彼の正面に立ち、逞しい胸を拳で叩く。
「鍛錬を頼みたい。私は生きたいんだ、喜助殿」
彼はニヤリと笑った。
「待ってました」
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こちらのお話は【 whimsy room 】の銀木セイ様との『創作力を上げよう企画』です。
(銀木さまのひな祭り企画が掲載されているページは こちら )
銀木様が書かれた【 桃色に染めて(銀時夢)】から、花、卒業、成長、大切な人の成長を待つということ等をテーマとして使わせていただきました。
ぜひ上記作品もお楽しみ下さい。
