本編 ーthirdー
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(まずいな)
冷たくなっていく服に、咲は頭を掻く。
(なんか、ドラマみたいじゃない?)
トイレ中にバケツで水をかけるなんて。
(時間ないのに)
訓練は後10分で始まる。
(遅刻は決定か)
朝のこともまだ謝れていないのに、遅れるなんてみっともないことしたくないのに。
(それにしても、一気にエスカレートした気がする。
これは面倒なことになったかもしれない)
無視を決め込んでいるけれど、彼女たちの興味はいつなくなるのだろうか。
昨夜盗まれた服は見つからなかった。
おそらく一晩隠してきたのだろう。
今朝ようやく見つかったが運悪く堂上達にも見られてしまった。
業務に差し支えるのは流石に問題だ。
トイレからとりあえず出ると、廊下にはごみ箱のごみがぶちまけられていた。
思わず固まってしまう。
(これって私が片づけないとダメなのかな)
片づけなければ後で何か言われるか、他の防衛部員が片づけをさせられるだろう。
「本当に、同情しちゃうな」
彼女たちの頭に。
あまりに能天気だ。
死にそうになっても助けないぞ、と言ってやりたい。
とりあえず、誰かに見つかる前に片づけないといけない。
急いで寮母さんのところに行って、ほうきとちりとりを借りてきてごみを集め、モップで濡れた床を拭く。
見るにみかねた寮母さんが手伝ってくれて案外早く終わった。
これで20分。
トイレの方は寮母さんが引き受けてくれて助かった。
走って部屋に戻ると、暴言の数々を書き連ねた紙が、扉いっぱいに張り付けられている。
もう25分経つ。
訓練開始からもう15分。
(あまり遅いと笠原士長が見に来てしまうかもしれない。
いや、そろそろ見に来てもおかしくない)
思わず舌打ちをし、紙を急いではがす。
彼女はこれを見たら傷ついてしまう。
優しい彼女は、きっと怒るだろう。
まだ乾かせていない水にぬれた私の髪を見て、どうしたのかと聞くだろう。
小さい頃から、みんなが私を遠ざけてきた。
腫れ物に触るように扱い、クラスメイト達もどこか私と接することを避けていた。
私もそうだった。
誰かと関わることを避けてきた。
自分にないものを欲しがらなくて済むように。
自分が誰かと違うことを見て、傷つかずに済むように。
そう、それでよかったのだ。
だから私も、強くいられた。
(でも違う。
笠原士長も、堂上二正も、それから……あの人も。
図書館で出会う人はみんな、違っていた。
あ、伯父さんだけは例外だったかな)
祖父母との約束を破り、図書館に行き始めたのが間違いだったのだろうか。
それとも高校時代、毬江と本の紹介のグループを組んでしまったのが間違いだったのだろうか。
「咲?」
かけられた声にびくりと肩が跳ねた。
考え込んでいたのがまずかったのだ。
慌てて紙束を丸めて立ち上がる。
笠原が不安げに近づいてくる。
逆光になってこっちのことはよく見えないはずだ。
「遅れて申し訳ありません。
今から準備して向かいますから、戻っていてください」
「どうしたの?
具合悪かった?
トイレに寄ったんだけどいなかったから、こっちかなと思って。
咲が遅れるなんて珍しいから、堂上教官まで心配していたんだよ」
その一言が、胸にツキンと刺さった。
「申し訳ありません、すぐに向かいますね」
なるべく明るく言って、部屋に入る。
カサっと音がして、足元を見れば、ドアの隙間から差し込んだであろう、張られていたのと同じような紙が何枚か落ちていた。
慌ててドアを閉める。
バタン
思ったよりも大きな音が鳴ってしまった。
「咲?」
とにかく慌てて紙を拾い、ドアから顔を出して笠原を見る。
不安げな顔だ。
ー勝手に心配しちゃったりするんだよ。
誰でもない、君自身のことをねー
小牧に言われた言葉がふと思い出される。
「すみません、慌てて閉めたので……
本当に、すぐに向かいます!
ちょっとトイレに行っていただけなんです、申し訳ありません」
「具合悪いの?
休んだ方がいいんじゃない?」
近づいてくる笠原に、咲は慌てて首を振る。
「本当にもう大丈夫なんです。
笠原士長まで抜けていては大変ですから、本当に戻ってください。
申し訳ありません」
迷うそぶりを見せながらも、笠原は足を止めた。
(少し強く言いすぎたかも……)
咲はその様子に、また胸が痛んだ。
「分かった、戻るね。
でも絶対に無理はだめだからね!」
明るい笑顔で、笠原は戻って行った。
咲はドアを閉めて、ずるずるとそのドアにもたれるように座り込んだ。
(どこまで隠せるだろう……)
ただただ、笠原には今まだ通り笑っていてほしいのだ。
「……ごめんなさい」
冷たくなっていく服に、咲は頭を掻く。
(なんか、ドラマみたいじゃない?)
トイレ中にバケツで水をかけるなんて。
(時間ないのに)
訓練は後10分で始まる。
(遅刻は決定か)
朝のこともまだ謝れていないのに、遅れるなんてみっともないことしたくないのに。
(それにしても、一気にエスカレートした気がする。
これは面倒なことになったかもしれない)
無視を決め込んでいるけれど、彼女たちの興味はいつなくなるのだろうか。
昨夜盗まれた服は見つからなかった。
おそらく一晩隠してきたのだろう。
今朝ようやく見つかったが運悪く堂上達にも見られてしまった。
業務に差し支えるのは流石に問題だ。
トイレからとりあえず出ると、廊下にはごみ箱のごみがぶちまけられていた。
思わず固まってしまう。
(これって私が片づけないとダメなのかな)
片づけなければ後で何か言われるか、他の防衛部員が片づけをさせられるだろう。
「本当に、同情しちゃうな」
彼女たちの頭に。
あまりに能天気だ。
死にそうになっても助けないぞ、と言ってやりたい。
とりあえず、誰かに見つかる前に片づけないといけない。
急いで寮母さんのところに行って、ほうきとちりとりを借りてきてごみを集め、モップで濡れた床を拭く。
見るにみかねた寮母さんが手伝ってくれて案外早く終わった。
これで20分。
トイレの方は寮母さんが引き受けてくれて助かった。
走って部屋に戻ると、暴言の数々を書き連ねた紙が、扉いっぱいに張り付けられている。
もう25分経つ。
訓練開始からもう15分。
(あまり遅いと笠原士長が見に来てしまうかもしれない。
いや、そろそろ見に来てもおかしくない)
思わず舌打ちをし、紙を急いではがす。
彼女はこれを見たら傷ついてしまう。
優しい彼女は、きっと怒るだろう。
まだ乾かせていない水にぬれた私の髪を見て、どうしたのかと聞くだろう。
小さい頃から、みんなが私を遠ざけてきた。
腫れ物に触るように扱い、クラスメイト達もどこか私と接することを避けていた。
私もそうだった。
誰かと関わることを避けてきた。
自分にないものを欲しがらなくて済むように。
自分が誰かと違うことを見て、傷つかずに済むように。
そう、それでよかったのだ。
だから私も、強くいられた。
(でも違う。
笠原士長も、堂上二正も、それから……あの人も。
図書館で出会う人はみんな、違っていた。
あ、伯父さんだけは例外だったかな)
祖父母との約束を破り、図書館に行き始めたのが間違いだったのだろうか。
それとも高校時代、毬江と本の紹介のグループを組んでしまったのが間違いだったのだろうか。
「咲?」
かけられた声にびくりと肩が跳ねた。
考え込んでいたのがまずかったのだ。
慌てて紙束を丸めて立ち上がる。
笠原が不安げに近づいてくる。
逆光になってこっちのことはよく見えないはずだ。
「遅れて申し訳ありません。
今から準備して向かいますから、戻っていてください」
「どうしたの?
具合悪かった?
トイレに寄ったんだけどいなかったから、こっちかなと思って。
咲が遅れるなんて珍しいから、堂上教官まで心配していたんだよ」
その一言が、胸にツキンと刺さった。
「申し訳ありません、すぐに向かいますね」
なるべく明るく言って、部屋に入る。
カサっと音がして、足元を見れば、ドアの隙間から差し込んだであろう、張られていたのと同じような紙が何枚か落ちていた。
慌ててドアを閉める。
バタン
思ったよりも大きな音が鳴ってしまった。
「咲?」
とにかく慌てて紙を拾い、ドアから顔を出して笠原を見る。
不安げな顔だ。
ー勝手に心配しちゃったりするんだよ。
誰でもない、君自身のことをねー
小牧に言われた言葉がふと思い出される。
「すみません、慌てて閉めたので……
本当に、すぐに向かいます!
ちょっとトイレに行っていただけなんです、申し訳ありません」
「具合悪いの?
休んだ方がいいんじゃない?」
近づいてくる笠原に、咲は慌てて首を振る。
「本当にもう大丈夫なんです。
笠原士長まで抜けていては大変ですから、本当に戻ってください。
申し訳ありません」
迷うそぶりを見せながらも、笠原は足を止めた。
(少し強く言いすぎたかも……)
咲はその様子に、また胸が痛んだ。
「分かった、戻るね。
でも絶対に無理はだめだからね!」
明るい笑顔で、笠原は戻って行った。
咲はドアを閉めて、ずるずるとそのドアにもたれるように座り込んだ。
(どこまで隠せるだろう……)
ただただ、笠原には今まだ通り笑っていてほしいのだ。
「……ごめんなさい」
