本編 ーthirdー
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「……変態じゃないの」
風呂から出ると、服がなかった。
さっきまで来ていた制服も、下着も、着替えの部屋着も、ない。
「……私、部屋から取ってくる」
幸い笠原のものはあった。
それを確認してすぐに来て走ろうとするから、咲は止める。
すぐに脱衣所にいる人に雰囲気で伝わったようだ。
それぞれ自分のものを確認するが、他の防衛部の人のはちゃんとあるらしい。
「そんな」
流石に防衛部員たちも驚いている。
「いいです。
女子寮ですし、タオルで出ます」
あきれ顔の咲。
「でも!」
逆に辛そうなのは笠原だ。
「騒ぐと余計に加熱するんです、こういうの。
飽きるまで放っておく方がいいんです。
大丈夫ですよ、笠原士長」
咲はバスタオルを体に巻いて、洗面台でとりあえず髪を乾かす。
「あの……すみません、昨夜……」
鏡越しに見えるのは、昨夜業務部に問い詰められていた隊員だ。
「敬語、使わないで下さいよ。
よそ者だからというなら、気にしませんが、私の方が年下ですし」
小さく笑って見せた。
無理にでも笑う大切さは、働くようになって初めて知った。
「でも……うん、ごめん」
「ありがとうございます。
先日は余計なことをしてしまったでしょうか?
すみません」
防衛部の人はあわてて首を振った。
「でも、そのせいでこんなことになってしまって」
「こんなことして、ただの馬鹿ともいいます。
状況みても、笑えちゃいますよね」
咲は声をあげて笑った。
そんなことを滅多にしないから、気を遣わせないためにやっているのだということくらい、笠原にも痛いほど分かった。
「そんなこと!」
「私からも謝ります。
同室なのに、お互い助け合いきれなくて」
「敬語やめてくださいって」
咲はいつもよりずっと笑顔だ。
笠原には彼女が無理をしている様子があまりに痛々しくて、思わず顔を歪めた。
「謝らないでください」
笠原の表情が曇っていることは、咲も鏡越しに気づいている。
「私、こういうのわりと平気なんです」
鏡ではなく、ちゃんと振り返って、2人の目を見てそう言った。
そして、声のトーンを一気に落とした。
「だから、気にしないでください。
県展が終われば解放される身なんですから、上手く使って」
その言葉に、2人は息をのむ。
歳下とは思えない、その気迫に。
「私、空太刀です。
お名前うかがってもよろしいですか?」
「私は野々宮」
丸眼鏡の防衛隊員が言う。
普段はお下げにしている覚えがあった。
「佐々木です」
こちらは昨夜の人。
ショートカットにちょっとそばかすがある。
咲も微かに目元を緩ませた。
「改めて、よろしくお願いします」
男風呂には遅いせいか特殊部隊数名しか入っていなかった。
これを好機に、話をする2人がいる。
「何か知ってませんか?」
山本の視線の先にいるのは、堂上だ。
「じゃあ聞くが、なんで俺に聞く?」
本人に聞けばいい、という話だ。
なぜ堂上に尋ねたかと言えば、笠原が何か言っているだろうという考えからだった。
「……聞けるわけない。
堂上二正だって、あいつの性格分かってるじゃないっすか」
「俺は聞くぞ。
そんなの考えてられるか」
その言葉に、山本はたじろぐ。
「まぁまぁ、笠原さんだったら確かにそうだろうけど」
「俺は一言も笠原のことは言っていないぞ!」
間に入ったのは小牧だ。
「空太刀さんはちょっと難しいよね」
「……はい」
山本は元気なく頷く。
彼にしては珍しいことだ。
「待ってあげるのも大切だけど、いざという時には、堂上みたいに押しを強く行くのも大切だと思うよ」
「なんだと」
同級生の毬江が恋人だけに、頼りになる、と思ったのは秘密だ。
「心の何処かで王子様を待つ子と、心の底から相打ち覚悟で敵を倒そうとする子とは扱いが違うって話」
「あいつは助けなんかいらない。
たとえ傷つこうと、助けられることの方を嫌うじゃないですか。
笑ってお礼を言って終わりにしたらいいのに、ただそれだけの人との関わりさえ避けて孤独を選ぼうとするんですよ」
「そうだね」
山本は溜息をついた。
「何が本当にあいつにとっていいのか、わかんなくなる」
