本編 ーzeroー
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「今日は帰るね」
そう言って咲は、赤い眼もとで柔らかく微笑んで、図書館に入らずに帰っていった。
遠くからその様子を気にかけていたのだろう。
小牧が毬江のそばにやってきた。
(そういえば今日、咲を紹介するって、言ってたんだ)
毬江は小牧を見上げそれから、少し笑って、目を瞬かせた。
さっきまで我慢していた涙が、一筋こぼれる。
小牧は驚いて、彼女の横に腰かけた。
「さっきの子なの。
私の大切な友達……っていっていいのかな」
自分で言っていておかしくなって笑えば、その振動でまた涙がこぼれる。
小牧は彼女の抱いた思いに、目を細めた。
「この前言ってた詩集、返して、小牧さんが言っていたことを言ったの。
たくさんの図書隊士さんが読んでるって。
強い言葉を持った作者さんだねって」
「うん。」
「そうしたら、咲さん、嬉しそうに笑ったの。
それからしばらくして泣き始めて……」
「うん。」
小牧の相槌はいつもと同じで優しい。
「ありがとうって、何回も言って泣いてて……」
「うん」
穏やかな空気に満ちていて。
「でも、とっても綺麗に笑っていて……」
「うん」
こんなふうに、咲に相槌してあげられれば良かったと思った。
「そうしたら、何だか泣きたくなっちゃったの」
愛しい泣き顔を見ながら、小牧はその本について思い返す。
その本の作者については、図書館隊、特に特殊部隊においては常識だ。
読んでいない人はいないだろう。
あの「日野の悪夢」で亡くなった図書館員が作者なのだから。
そしてふと、思い至ったのだ。
(日野の悪夢の・・・生き残り。)
それは大抵、ここ図書館では稲嶺を指す。
だがこの事件を取り上げた新聞記事は、別の赤ん坊も取り上げていた。
亡くなった12人の被害者の中には、実は2組の夫婦がいた。
1組は稲嶺夫妻。
もう1組は、空太刀夫妻。
空太刀の妻は救急車が駆けつけた時にまだ微かに息が残っており、お腹には何と子どもがいた。
病院に緊急搬送された母親は息絶えてしまったが、帝王切開により子どもの命だけは助かったのだ。
その子どもは、祖父母に引き取られて、いつの間にか忘れられていった。
そしてこの詩集の作者は、生前の空太刀の夫の方だったはずだ。
あの事件から考えれば、その子どもも今や17歳。
今、毬江と同じ学年にいることになる。
過去に何度か見たことのある空太刀夫妻の写真と、先日見た咲という女子高生の顔を思い浮かべると、確かに似ていないこともない。
(その子どもが、もしかして・・・。)
"空太刀咲"
本当にその子が生き残りなのか、若干の興味はある。
だが、それを確定する必要もないように感じた。
それは、小牧が毬江に告げることではなくて、
必要に応じて咲が告げるべきことであると、わかっていたから。
「また読みなおそうかな」
小牧のつ呟きに、毬江は、絶対読み直して、と笑顔で念を押した。
正義という強さを教えてくれた本
そう言って咲は、赤い眼もとで柔らかく微笑んで、図書館に入らずに帰っていった。
遠くからその様子を気にかけていたのだろう。
小牧が毬江のそばにやってきた。
(そういえば今日、咲を紹介するって、言ってたんだ)
毬江は小牧を見上げそれから、少し笑って、目を瞬かせた。
さっきまで我慢していた涙が、一筋こぼれる。
小牧は驚いて、彼女の横に腰かけた。
「さっきの子なの。
私の大切な友達……っていっていいのかな」
自分で言っていておかしくなって笑えば、その振動でまた涙がこぼれる。
小牧は彼女の抱いた思いに、目を細めた。
「この前言ってた詩集、返して、小牧さんが言っていたことを言ったの。
たくさんの図書隊士さんが読んでるって。
強い言葉を持った作者さんだねって」
「うん。」
「そうしたら、咲さん、嬉しそうに笑ったの。
それからしばらくして泣き始めて……」
「うん。」
小牧の相槌はいつもと同じで優しい。
「ありがとうって、何回も言って泣いてて……」
「うん」
穏やかな空気に満ちていて。
「でも、とっても綺麗に笑っていて……」
「うん」
こんなふうに、咲に相槌してあげられれば良かったと思った。
「そうしたら、何だか泣きたくなっちゃったの」
愛しい泣き顔を見ながら、小牧はその本について思い返す。
その本の作者については、図書館隊、特に特殊部隊においては常識だ。
読んでいない人はいないだろう。
あの「日野の悪夢」で亡くなった図書館員が作者なのだから。
そしてふと、思い至ったのだ。
(日野の悪夢の・・・生き残り。)
それは大抵、ここ図書館では稲嶺を指す。
だがこの事件を取り上げた新聞記事は、別の赤ん坊も取り上げていた。
亡くなった12人の被害者の中には、実は2組の夫婦がいた。
1組は稲嶺夫妻。
もう1組は、空太刀夫妻。
空太刀の妻は救急車が駆けつけた時にまだ微かに息が残っており、お腹には何と子どもがいた。
病院に緊急搬送された母親は息絶えてしまったが、帝王切開により子どもの命だけは助かったのだ。
その子どもは、祖父母に引き取られて、いつの間にか忘れられていった。
そしてこの詩集の作者は、生前の空太刀の夫の方だったはずだ。
あの事件から考えれば、その子どもも今や17歳。
今、毬江と同じ学年にいることになる。
過去に何度か見たことのある空太刀夫妻の写真と、先日見た咲という女子高生の顔を思い浮かべると、確かに似ていないこともない。
(その子どもが、もしかして・・・。)
"空太刀咲"
本当にその子が生き残りなのか、若干の興味はある。
だが、それを確定する必要もないように感じた。
それは、小牧が毬江に告げることではなくて、
必要に応じて咲が告げるべきことであると、わかっていたから。
「また読みなおそうかな」
小牧のつ呟きに、毬江は、絶対読み直して、と笑顔で念を押した。
正義という強さを教えてくれた本