本編 ーsecondー
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「あの子、何読むの?」
一士への昇級試験も、実技は読み聞かせだ。
郁がそわそわとした様子で手塚に尋ねる。
「チビのことか?
お前、知らないのか?」
「チビって・・・それこの前堂上教官も言ってたけど、やめてあげなよ。」
あきれ顔の郁。
一士への昇級試験の受験者は少ない。
もともと二士自体が少ないのだから、当たり前といえば当たり前だ。
その中でも咲は最後。
だから見学者もそれほどいない。
郁と柴崎と、それからおまけについてきた手塚くらいだ。
3人は試験は全て無事終了している。
ちなみに堂上と小牧は試験官として並んでいる。
進藤班は業務中で、進藤は来られず。
山本も自分の試験が終わるとすぐに業務に戻されてしまった。
咲自身もつい10分ほど前までは業務についていた。
多くの職員が昇級試験で欠席を取る分、まだ受験するには若いと見える者は、休みを取ることはできない。
当然と言えば当然だ。
物事には順序がある。
「カチカチ山だそうだ。」
「カチカチ山?」
ちょうど咲の番になったらしい。
咲は静かに絵本を読み進める。
老夫婦の畑には毎日、性悪なタヌキがやってきて不作を望むような囃子歌を歌う上に、
せっかくまいた種や芋をほじくり返して食べてしまっていた。
業を煮やした翁(おきな)はやっとのことで罠でタヌキを捕まえ、
翁は、媼(おうな)に狸汁にするように言って畑仕事に向かった。
「・・・これ、原作通りだわ。」
柴崎が小声でつぶやく。
「それ大丈夫なの?」
物語の原作が残酷なので書きかえられることは、最近ではよくある話だ。
賛否両論はあるものの、過激なものよりは、と支持されつつもある。
「問題作を持ってくるなんて・・・。」
当然、その絵本を見た時点で、試験官たちは気づいている。
小牧と、堂上も然りだ。
物語はどんどん進んでいく。
子ども達も神妙な顔で話を聞いている。
その点、彼女の話術は巧みだ。
タヌキは「もう悪さはしない、家事を手伝う」と言って媼を騙し、
縄を解かせて自由になるとそのまま老婆を杵で撲殺し、その上で媼の肉を鍋に入れて煮込み、
「婆汁」(ばばぁ汁)を作る。
そしてタヌキは媼に化けると、帰ってきた翁にタヌキ汁と称して婆汁を食べさせ、
それを見届けると嘲り笑って山に帰った。翁は追いかけたがタヌキに逃げられてしまった。
「ひどい!」
「かわいそう・・・。」
子ども達から声が上がり、咲は本を閉じて膝の上に置いた。
「おばあさんは助けてあげたのに・・・」
「嫌なたぬき!」
後ろの扉から一人入ってきて、郁達に頭を下げながら近づいてくる。
「山本?」
「10分だけ休憩で・・・
これ、どうなってるんすか?」
一番不安になる10分にきてしまったかもしれない。
子ども達は立ち上がったり好き勝手に狸を批判しているが、咲はじっとそれを見ているだけ。
あまりお話し会が紛糾するようだと、試験官からストップがかかってしまう。
「あいつのお話し会はいつも上手くまとまっているんです。」
小声で山本は手塚に話す。
「いったい、どうしたんだ。」
試験官達がアイコンタクトを始めた。
デッドライン