本編 ーsecondー
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今日の業務は館内見回り。
不意に業務用掲示板の文字が目に入った
「昇任試験……」
思わず足を止めて告知を見る。
咲の階級章は、V字に開いた本が1冊。
「どうしたんだ?」
不思議に思って戻ってきた山本。
「ああ、そんな季節か」
彼の階級章は、V字に開いた本が2冊。
「……お前欲しいよな、もう一冊」
山本が眉をあげ、そして自分の階級章を見る。
「そう言えば、特殊部隊で二士って過去にもお前だけじゃね?」
確かに、咲たちの一代前が笠原一士と手塚一士だ。
きっと彼らはこの昇級試験を受けるのだろう。
「聞いてみねぇか、進藤一正に」
咲は首を横に振った。
「無理じゃないかな、だって笠原一士達だってまだ一士。
物事には順序がある」
咲は掲示板の前から立ち去る。
山本はまだその前で少し考え、それから咲を追いかけた。
「……欲しいな、もう一冊」
小さなつぶやきに、本を抱えたまま郁は角を曲がるのをやめ、壁から向こうを覗いてみる。
掲示板の前に、咲と山本の姿があった。
なんとなくが出ていくのはまずいと感じた。
「どうしたの、笠」
後から声をかける小牧を視線で黙らせ、2人で事の成り行きを見守る。
小牧の方は、掲示板の前、というだけであらかた話が読めたようだ。
「そう言えば、特殊部隊で二士って過去にもお前だけじゃね?」
その言葉に、郁はようやく何がもう一冊欲しいのか理解できた。
自分がカミツレがほしいように、彼女はもう一冊本がほしいのだ。
同じように過ごしていると忘れがちだが、彼女の階級は郁達より、そして山本よりも1つ低い。
「聞いてみねぇか、進藤一正に」
「無理じゃないかな、だって笠原一士達だってまだ一士。
山本だって、まだ一士。
物事には順序がある」
その言葉は、郁の胸に深く響いた。
筆記試験がネック、と言っている郁には、重い言葉だ。
去っていく後輩達の背中に、郁と小牧もようやく角を曲がる。
「あれだけ頑張っているのに」
郁がぽつりとこぼす。
自分たちと同じように働き、同じように危険な目に遭い、そして彼女は足に銃弾も受けた。
それがいいこととは言わないし、評価されることだとは思わないが。
「進藤一正も、迷ってるんじゃないかな。
ほら、彼女最近元気ないし。
理由は誰も分からないみたいでしょ。
今試験は彼女には重すぎるかもしれない」
「でも、欲しがってます」
郁は小牧を見上げる。
「それに最近だいぶ元気になりましたよ。
彼女も彼女なりに乗り越えているんです」
「そうかい?」
小牧は言葉を促すように頷く。
「咲は守りたいんです。
本を守りたいんです。
私は、そんな咲を応援したいです」
そのまっすぐな視線に、小牧は小さく微笑んだ。