本編 ーsecondー
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「咲さん」
近くの中学校に通う女の子が、何やら暗い表情で声をかけてきた。
小学生の頃からよく見かけていて、何度も話したことのある子だ。
「こんにちは、何かありましたか?」
本を片付ける手を止めて向き合う。
彼女は一冊の本をかばんから取り出した。
「レインツリーの国」だ。
高校時代、毬江が勧めてくれた懐かしい本。
彼女と小牧さんを繋ぐ大切な大切な本。
「この本ってそんなに問題があるんですか」
その問いかけに咲は困惑し、それから首を傾げた。
見上げてくる彼女の目は真剣だ。
「問題って……どうして」
「最近、そういう口コミを読んで」
「そう……」
作品を評論し、批判的な口コミを書きたい人の気持ちも分かる。
だが一方で、そんな批判的な口コミに傷つけられる人も多い。
作品の批評をするのは自由だ。
この社会に潜む言葉の刃物を全て片付けることは不可能。
また読んだ人が傷つく理由は不特定であり、「傷ついた」の一言でその口コミが悪いと判断することは難しい。
特に若者は、多感だ。
たとえ傷つける意図がなくとも少しの言葉で傷つきやすく、その傷をかかえやすい。
大切なのは、自分の中で情報を整理する力。
言葉の刃を去なすスキルだ。
「口コミは一つの意見にすぎません。
作品が世の中に出ると言うことは、それを好意的に受け止める人もいますし、批判的に受け止める人もいると言うことです。
その口コミを書いた人はそう思った……ただそれだけのこと。
貴方はどうですか」
「大好きです。
友達が大好きで勧めてくれた本で、私もとても感動したから」
「ならその気持ちを、大切にすることが一番大事なことです」
女の子はほっとした顔になって、その本を抱きしめた。
「お母さんが、インターネットで見たって言ってたんです。
この本はあまりいい本じゃないって、図書館の人が言っているって」
図書館職員であることをオープンにして厳しく批評するとなれば、きちんとした肩書を持って行うか、上から注意を受けるかのどちらかになるだろうことが予想される。
彼女のお母さんが見て自分の耳に入るほどなのだ、それなりに拡散され、時間が経っていることを考えると前者か、または注意が下りてくるまでに時間がかかる理由があるか。
「図書館にもいろんな人がいますから、それも一つの意見にすぎません。
私は好きですよ、この本。
大切な思い出の本です」
鞠江を思い出すと自然と胸が暖かくなった。
「ありがとう、咲さん。
少し気持ちが軽くなりました」
「気をつけて帰ってくださいね」
「はい。」
女の子は小さな微笑みを浮かべて、手を振って帰っていった。
(とりあえず仕事が終わったらネット検索してみて、状況によっては柴崎さんに探りを入れるか……あとは鞠江も心配だな)
何かが動き始めた