本編 ーzeroー
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ここ1週間、毬江は何となく咲と、一緒に図書館に通っている。
咲は無口だが、会話がないからと言って嫌な空気になることはない。
不思議だった。
図書館に入れば大抵別行動だ。
彼女はちらっと毬江を見て軽く手を挙げ、それからいつも本の間に消えていく。
その後も見かけることもあれば、まったくどこにいるのかと疑問になるくらい姿を見ないときもある。
友達、と呼んでいいのだろうか。
一体何度会話しただろう。
片手で足りるかもしれない。
(なのに毎日一緒に図書館?)
疑問だらけの関係に、首をひねるも、まあいいかと思えてしまうのが咲との関係だった。
それは突然だった。
『気楽に読める おもしろい 本』
帰り支度も済んで暇だったから携帯で検索してみたが、思ったような本は見つからなかった。
諦めて借りていた本でも読もうかと思ったと、机の上に携帯を置いたときだった。
ゆらっと影が落ち、見上げて、あっ、と口を開く。
そこにいたのは咲だった。
他人に興味がない彼女は、大抵何があっても人の隣を素通りしている。
その彼女が、携帯を見て立ち止まっていた。
それから制服のポケットから同じく携帯を取り出した。
『もう少し、詳しく聞かせて?』
差し出された画面に書かれた文字。
何を聞かれているのか、初めわからなかった。
『どんな本が読みたいの?』
続けて書かれて、やっと気づく。
その頃には先生が教室に入ってきて、帰りのホームルームが始まろうとしていた。
毬江は慌てて携帯を片づけ、咲はいつも通り静かに席に着いた。
図書館に入り、いつものように軽く手を挙げて去っていこうとするから、慌てて引き止めた。
携帯を取り出し、急いで文字を打ち込む。
『勉強に肩こったときに、短編とかをさっくり読んで、気分転換したいの。
軽くて、明るくて、楽しいのがいい。
お勧めの本、もしあったら教えてくれない?』
彼女はそれを一瞬見ただけで毬江の顔を見たが、読書スピードの早さを知っているので特に驚きはしない。
ひとつ頷くと彼女は歩きだし、毬江もそのあとを追った。
その後に過ごした時間は、毬江を酷く驚かせた。
咲の表情が、変わるのを見たのだ。
それも、何度も。
いつもあれほど変わらない彼女の表情が、
本を見て、毬江に勧めては変わっていく。
気のせいか頬もほんのり明るい。
本を渡される時に手が触れ合ったが、温かい手だった。
息遣いが聞こえる程静かに、でも、彼女が間違いなく今、この時を楽しんでいるのが伝わってきた。
それほど長い時間ではなかったと思う。
でも、彼女の見せてくれる本の世界は、
今まで見てきたものとは全く違うものがあったり、近いのに気付いていないものがあったりで、
もっともっと、といろんな本を教えてもらった。
彼女もそれが嬉しいようだった。
彼女も、こんなふうに笑うんだと、初めて知った。
ずっとそうしていてほしいと思った
咲は無口だが、会話がないからと言って嫌な空気になることはない。
不思議だった。
図書館に入れば大抵別行動だ。
彼女はちらっと毬江を見て軽く手を挙げ、それからいつも本の間に消えていく。
その後も見かけることもあれば、まったくどこにいるのかと疑問になるくらい姿を見ないときもある。
友達、と呼んでいいのだろうか。
一体何度会話しただろう。
片手で足りるかもしれない。
(なのに毎日一緒に図書館?)
疑問だらけの関係に、首をひねるも、まあいいかと思えてしまうのが咲との関係だった。
それは突然だった。
『気楽に読める おもしろい 本』
帰り支度も済んで暇だったから携帯で検索してみたが、思ったような本は見つからなかった。
諦めて借りていた本でも読もうかと思ったと、机の上に携帯を置いたときだった。
ゆらっと影が落ち、見上げて、あっ、と口を開く。
そこにいたのは咲だった。
他人に興味がない彼女は、大抵何があっても人の隣を素通りしている。
その彼女が、携帯を見て立ち止まっていた。
それから制服のポケットから同じく携帯を取り出した。
『もう少し、詳しく聞かせて?』
差し出された画面に書かれた文字。
何を聞かれているのか、初めわからなかった。
『どんな本が読みたいの?』
続けて書かれて、やっと気づく。
その頃には先生が教室に入ってきて、帰りのホームルームが始まろうとしていた。
毬江は慌てて携帯を片づけ、咲はいつも通り静かに席に着いた。
図書館に入り、いつものように軽く手を挙げて去っていこうとするから、慌てて引き止めた。
携帯を取り出し、急いで文字を打ち込む。
『勉強に肩こったときに、短編とかをさっくり読んで、気分転換したいの。
軽くて、明るくて、楽しいのがいい。
お勧めの本、もしあったら教えてくれない?』
彼女はそれを一瞬見ただけで毬江の顔を見たが、読書スピードの早さを知っているので特に驚きはしない。
ひとつ頷くと彼女は歩きだし、毬江もそのあとを追った。
その後に過ごした時間は、毬江を酷く驚かせた。
咲の表情が、変わるのを見たのだ。
それも、何度も。
いつもあれほど変わらない彼女の表情が、
本を見て、毬江に勧めては変わっていく。
気のせいか頬もほんのり明るい。
本を渡される時に手が触れ合ったが、温かい手だった。
息遣いが聞こえる程静かに、でも、彼女が間違いなく今、この時を楽しんでいるのが伝わってきた。
それほど長い時間ではなかったと思う。
でも、彼女の見せてくれる本の世界は、
今まで見てきたものとは全く違うものがあったり、近いのに気付いていないものがあったりで、
もっともっと、といろんな本を教えてもらった。
彼女もそれが嬉しいようだった。
彼女も、こんなふうに笑うんだと、初めて知った。
ずっとそうしていてほしいと思った