本編 ーfirstー
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「メリークリスマス!」
郁と柴崎と咲の声が重なる。
ケーキを囲んで女子3人。
クリスマスの楽しい女子会だ。
買ってきた料理や菓子、酒、ケーキを並べ、3人で気楽に楽しくワイのワイの。
咲はあまり経験したことのない状況なので、なんだか落ち着かない。
「ほら、あんたも食べなさい」
柴崎に更にフライドチキンをのせてもらい、少し迷ってから端の方を齧る。
香ばしいその味が、1人で食べる時よりずっと美味しい。
「やっぱりクリスマスはこうでなくちゃ!」
満面の笑みでチキンに齧り付く郁に、思わず笑みが溢れる。
こういう華やかなことは、家では1度もなかった。
歳を重ねた祖父母によって育てられたと言うのもあるだろう。
両親を一度に失くした悲しみもあるだろう。
家はいつも、どこか悲しみを背負っていた。
悲しみを背負っていたのは、息子を失った祖父母の話だ。
生まれる前に両親を失った咲自身はどうなのか、改めてふと考える。
両親を追いかけて、図書館が好きになって、ここにいる自分は。
「咲、いい子ね」
酔っ払った先輩が抱きついてきてくれる自分は。
「全くしょうがないんだから」
そんな自分達を苦笑して見守ってくれる先輩がいる自分は。
今の、自分は。
「やめなさい笠原、困ってるでしょう」
柴崎の言葉に郁が目を瞬かせ、咲を見た。
「あ、いえ、私は……困っていたわけではなく」
そこまで言ってからなんと言い訳するべきか迷う。
「あの、こういうの初めてで……」
誤魔化すつもりで言ったその言葉に、郁が驚いた顔をしたので、逆に気を使わせてしまう様なことを言ってしまったと気づき慌てる。
「あ、違うんです、別にそんなことは気にしてなくて……祖父母はこういうのが苦手だっただけで、私は、その……」
声がだんだん小さくなっていく。
2人は咲の言葉を待つばかりて、余計に恥ずかしくなる。
俯いて、チョコレートの包みを弄りながら、口を開けたり閉めたりして、それからやっとのことで呟いた。
「……ありがたいなと……思うのです」
楽しさも喜びも、一緒に持っている