本編 ーfirstー
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「悔しーっ!」
地団太踏みながらコートから出てきた郁に、咲はタオルとスポーツドリンクを手渡した。
堂上と郁の試合は何ともいい勝負。
堂上が意地で勝ったと言ってもいいかもしれないくらいだ。
「男女差があるのにすごいですよ。
相手はあの堂上教官ですし」
必死のフォローも役には立たない。
向こうのコートでは、コートから出てきた堂上に、柴崎がタオルとスポーツドリンクを手渡している。
タオルで額を拭く堂上がちらりと郁を見、郁と目があって……
「ひ、火花が見えるな……」
山本が苦笑を浮かべた。
季節は秋。
毬江が図書館に来た際に、みんなでスポーツでもどうですか?と言ったのがきっかけで、今日はこうして近くのテニスコートを借りた。
みんなで楽しく汗を流すはずが、特殊部隊がそんな程度で収まるはずがなかった。
「頑張ってね!!!」
まだまだ熱く燃えている郁からラケットを受け取る。
次は咲と小牧だ。
同じくコートに入ってきた小牧は柔らかく微笑む。
「お手柔らかに頼むよ」
相手が大人でよかった、と少しほっとする。
「こちらこそよろしくお願いします」
咲のサーブからスタートした試合は、程よく楽しく汗を流し……
「流石です、身のこなしが違いますね」
「いやいや、君もこの前足を怪我したとは思えないよ」
意地の張り合いによる点数差、ではなく、大人の余裕の見えるほどよい点数差で小牧が勝利。
毬江が小牧にタオルを渡す微笑ましい風景に、咲も自然と笑顔になる。
「次は……」
タオルで汗を拭きながらコートに目を戻せば、山本と手塚が向かい合っていた。
咲が堂上班と仲が良く、この前咲が怪我をしたときに病室でよく顔を合わせていたからか、
いつの間にか山本もすっかり仲間入りしてしまっているのだ。
「なんか、わりとやる気ねぇ」
くすくすという笑い声に目を向ければ、柴崎が咲の隣に腰を下ろすところだった。
「手塚も結構負けず嫌いだし……
いくら上司2人が相手チームだろうと、遠慮しないし、ましてや相手が後輩じゃ、負けていられないものね」
確かにそうかもしれない、と納得してしまう。
「このまま勝つぞ山本!!」
「頑張れー」
まだ鎮静化されていない堂上と、それを楽しむ小牧の声援が山本に注がれる。
敬愛する堂上に後輩が勝つことを望まれ、手塚の心中も穏やかではないだろう。
ここは微力ながらも応援せねばと、咲は手を口の傍に当てて負けじと大きな声を出した。
「手塚一士!頑張ってください!!」
それで相手チームである山本のスイッチが入るとは露知らずーー
結果は白熱した試合の末手塚の勝利に終わったが、合計得点では惜しくも1点差で負けてしまい、郁・咲・手塚チームが夕食を奢るはめになってしまった。
そもそもグーとパーのじゃんけんでチームを分けた時点でミスだったとふくれっ面していたが、料理が運ばれてくると直に機嫌を直す郁。
堂上のテニス談義に真剣に耳を傾ける手塚。
ちゃっかり隣に座って微笑みあっている小牧と毬江を横目で見ながら、お気に入りのパスタを綺麗に巻いて口に運ぶ柴崎。
そしてショックをぬぐい切れぬ山本に、咲は思わず微笑んでしまう。
(たまにはこういうの、楽しくていいかも)
スポーツの秋!