本編 ーfirstー
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銃声が鳴り響く。
初めての実戦なのに、咲は不思議と落ち着いていた。
両親はこの銃弾で、死んだ。
その銃弾を、今度は自分が放つ。
そうっと銃を構える。
近くにいる手塚の視線に、息をつめた。
見られるのは得意じゃない。
でも彼も力の程を見極めたいのだろう。
そう思うと余計に肩に力が入ってしまう。
認められたいーー
ここに来るまで、そんな感情は抱いたことがなかった。
他人はただの他人で、興味なんてなかったのだ。
だが彼は先輩で、一士で、憧れの特殊部隊で、進藤も認める腕で、そして慧の弟でーー
熱い程鼓動が鳴るのに、指先は冷たい。
震えそうな腕を叱咤して、銃口を定める。
追いつきたいーー
引き金に指をかけた。
「どうだ、手塚」
腕を組みドヤ顔をする進藤に、手塚は一言返す。
「流石ですね」
言葉少なだが、本心だった。
それが伝わったのだろう、進藤も満足げな顔をした。
書き終わった報告書をトントンと揃える。
噂では聞いていたが、実戦であれほどすぐに使えるとは意外だった。
「だろう?
俺の可愛い姪っ子だからな」
お得意のトム笑いに隣でまだ報告書を書いていた郁が顔を上げた。
「進藤一正って兄妹いらっしゃるんですか?」
その言葉に堂上の眉間には皺が現れ、小牧は心の中で小さくため息をついた。
「いたよ。
姉が、一人」
その言葉の意図に流石の郁も気付き、手塚は動きを止めて視線を彷徨わせた。
「気にするな。
あの子が生きていてくれただけでも十分なんだから」
進藤が部屋から出て行ってから、郁が堂上を見た。
「詳しい事知ってるなら教えておいてくれてもよかったんじゃないですか?」
口を尖らせて抗議する。
流石に気まずかったのだ。
「プライベートでナイーブな話だからな」
だがお前には言っておくべきだったか、と堂上は頭をかいた。
それから溜息をついて、口を開いた。
「お姉さんは、空太刀の母さんだ。
夫婦とも日野の悪夢の犠牲者でな、空太刀はお姉さんの腹ん中で生き延びたらしい」
瞠目する郁と手塚。
図書館を愛し、年の割に落ち着きのある、無口な影に潜む、過去。
彼女はどんな思いでこの図書館に通い、入隊したのだろう。
それを比較するなんて言うことは無意味だということは、郁もわかっている。
だがそれでもどこか自分と比べざるを得なかったし、そうするとどこか浮ついているようにさえ見える自分を彼女がどんなふうに見ているのか、少し気になった。
「知らなかった、そんなこと 」
郁はぽつりと零れるように呟いた。
その様子に堂上と小牧は目をちらりと見合わせた。
咲との接点の少ない手塚はさておき、咲と関わる事も多く繊細な一面を持つ郁に対しては、今後の相談が必要かもしれないと思ってのことだ。
だが郁は静かに考えていた。
知っていたら何か変わるわけでもない。
彼女も知ってほしいわけでもあるまい。
少しの間をおいて、顔を上げ、僅かに微笑む。
「……でも、ありがとうございます」
それでも知ってよかったと思えるような、思ってもらえるような自分でありたい、あらねばならないと、そう思ったのだ。
本が好き、図書館が好きーー
きっとその思いは、2人に違い等ないのだろうと、そう信じて。
部下の成長を見てとった上官二人も、僅かに微笑んで頷いた。
初めての実戦なのに、咲は不思議と落ち着いていた。
両親はこの銃弾で、死んだ。
その銃弾を、今度は自分が放つ。
そうっと銃を構える。
近くにいる手塚の視線に、息をつめた。
見られるのは得意じゃない。
でも彼も力の程を見極めたいのだろう。
そう思うと余計に肩に力が入ってしまう。
認められたいーー
ここに来るまで、そんな感情は抱いたことがなかった。
他人はただの他人で、興味なんてなかったのだ。
だが彼は先輩で、一士で、憧れの特殊部隊で、進藤も認める腕で、そして慧の弟でーー
熱い程鼓動が鳴るのに、指先は冷たい。
震えそうな腕を叱咤して、銃口を定める。
追いつきたいーー
引き金に指をかけた。
「どうだ、手塚」
腕を組みドヤ顔をする進藤に、手塚は一言返す。
「流石ですね」
言葉少なだが、本心だった。
それが伝わったのだろう、進藤も満足げな顔をした。
書き終わった報告書をトントンと揃える。
噂では聞いていたが、実戦であれほどすぐに使えるとは意外だった。
「だろう?
俺の可愛い姪っ子だからな」
お得意のトム笑いに隣でまだ報告書を書いていた郁が顔を上げた。
「進藤一正って兄妹いらっしゃるんですか?」
その言葉に堂上の眉間には皺が現れ、小牧は心の中で小さくため息をついた。
「いたよ。
姉が、一人」
その言葉の意図に流石の郁も気付き、手塚は動きを止めて視線を彷徨わせた。
「気にするな。
あの子が生きていてくれただけでも十分なんだから」
進藤が部屋から出て行ってから、郁が堂上を見た。
「詳しい事知ってるなら教えておいてくれてもよかったんじゃないですか?」
口を尖らせて抗議する。
流石に気まずかったのだ。
「プライベートでナイーブな話だからな」
だがお前には言っておくべきだったか、と堂上は頭をかいた。
それから溜息をついて、口を開いた。
「お姉さんは、空太刀の母さんだ。
夫婦とも日野の悪夢の犠牲者でな、空太刀はお姉さんの腹ん中で生き延びたらしい」
瞠目する郁と手塚。
図書館を愛し、年の割に落ち着きのある、無口な影に潜む、過去。
彼女はどんな思いでこの図書館に通い、入隊したのだろう。
それを比較するなんて言うことは無意味だということは、郁もわかっている。
だがそれでもどこか自分と比べざるを得なかったし、そうするとどこか浮ついているようにさえ見える自分を彼女がどんなふうに見ているのか、少し気になった。
「知らなかった、そんなこと 」
郁はぽつりと零れるように呟いた。
その様子に堂上と小牧は目をちらりと見合わせた。
咲との接点の少ない手塚はさておき、咲と関わる事も多く繊細な一面を持つ郁に対しては、今後の相談が必要かもしれないと思ってのことだ。
だが郁は静かに考えていた。
知っていたら何か変わるわけでもない。
彼女も知ってほしいわけでもあるまい。
少しの間をおいて、顔を上げ、僅かに微笑む。
「……でも、ありがとうございます」
それでも知ってよかったと思えるような、思ってもらえるような自分でありたい、あらねばならないと、そう思ったのだ。
本が好き、図書館が好きーー
きっとその思いは、2人に違い等ないのだろうと、そう信じて。
部下の成長を見てとった上官二人も、僅かに微笑んで頷いた。