本編 ーfirstー
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腹に響く音を立てて、的の中央からほんの少しずれた所に穴が開いた。
それを見た他の隊員が驚いたように声を上げる。
当の本人はそれが全く聞こえないかのようで、
悔しそうに銃口を見るともう一度構え、また音を響かせる。
進藤はにやりと笑う。
やはりこいつは素質がある、と。
「うわー、お前、すごいのな」
隣で銃の構えを解いた山本の歓声は、彼女に届いたらしい。
「なんだか、しっくりくるんだ。
合っているのかもしれない」
綺麗に的の中央にあいた穴。
再び銃声が響き、今度は穴の数は変わらない。
つまり先ほどの穴に入ったと言うこと。
となりの山本はというと、的には当たっているが、と言った程度。
初回の射撃訓練だ。
彼程度でむしろ普通。
咲は異常と言える。
「手塚一士を超えているぞ」
聞こえた囁き声に進藤は鼻が高くなる。
やはり自分と同じ才能を持っているなんて誇らしい。
なにせ、あの姉の子なのだから。
俺の可愛い姪っ子なのだから、と。
日野の悪夢の直前まで、姉夫婦は幸せに包まれていて、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいだった。
もうすぐ生まれてくる女の子を心待ちにして、春生まれだから明るく温かい名前にしよう、いや好きな本の登場人物からとるのだと言ったり、こちらがうんざりするほど生まれてくる子供の話をしていた。
ーーきっと私に似て、能天気で活発な子だよ。
それに本が大好きに決まってる!ーー
最期に見たのは眩しいくらいの、笑顔。
全ては一瞬で崩れ去った。
一命を取り留めた子どもには候補に挙がっていた名前で、家族が覚えているものの中から一つを選んでつけた。
彼女の両親が、彼女の為に残した、世界にたった一つのものだ。
赤子は父方の実家に引き取られたから、進藤は会うのは年に1度、正月にあいさつに来る時くらいしか会うことはなかった。
姉の予想とは裏腹に、ひどく静かな子だった。
そして予想通り、本の虫のような子だった。
だから図書館で偶然彼女を見かけたときには度肝を抜かれた。
聞き分けが良く大人しい彼女が、祖父母の言いつけを破るなんて思いもよらなかったからだ。
でもその一方で、それでこそ姉の子だ、とも思った。
いつしか少女は自分と同じここ にやってきた。
それは嬉しくもどこか心痛む。
いつか彼女の母の様に、本の為に、誰かの為にと命を落としてしまうのではないかと。
どうかそれまでに、もう一度彼女が生き残るための理由をーー
彼女が生き残るために、姉が懸けた命の為にも、進藤は祈りを込めて銃を握った。
銃は命を奪う。
銃は命を救う。
「弾を無駄にするな!
命が乗っていることを忘れるんじゃないぞ!」
それを見た他の隊員が驚いたように声を上げる。
当の本人はそれが全く聞こえないかのようで、
悔しそうに銃口を見るともう一度構え、また音を響かせる。
進藤はにやりと笑う。
やはりこいつは素質がある、と。
「うわー、お前、すごいのな」
隣で銃の構えを解いた山本の歓声は、彼女に届いたらしい。
「なんだか、しっくりくるんだ。
合っているのかもしれない」
綺麗に的の中央にあいた穴。
再び銃声が響き、今度は穴の数は変わらない。
つまり先ほどの穴に入ったと言うこと。
となりの山本はというと、的には当たっているが、と言った程度。
初回の射撃訓練だ。
彼程度でむしろ普通。
咲は異常と言える。
「手塚一士を超えているぞ」
聞こえた囁き声に進藤は鼻が高くなる。
やはり自分と同じ才能を持っているなんて誇らしい。
なにせ、あの姉の子なのだから。
俺の可愛い姪っ子なのだから、と。
日野の悪夢の直前まで、姉夫婦は幸せに包まれていて、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいだった。
もうすぐ生まれてくる女の子を心待ちにして、春生まれだから明るく温かい名前にしよう、いや好きな本の登場人物からとるのだと言ったり、こちらがうんざりするほど生まれてくる子供の話をしていた。
ーーきっと私に似て、能天気で活発な子だよ。
それに本が大好きに決まってる!ーー
最期に見たのは眩しいくらいの、笑顔。
全ては一瞬で崩れ去った。
一命を取り留めた子どもには候補に挙がっていた名前で、家族が覚えているものの中から一つを選んでつけた。
彼女の両親が、彼女の為に残した、世界にたった一つのものだ。
赤子は父方の実家に引き取られたから、進藤は会うのは年に1度、正月にあいさつに来る時くらいしか会うことはなかった。
姉の予想とは裏腹に、ひどく静かな子だった。
そして予想通り、本の虫のような子だった。
だから図書館で偶然彼女を見かけたときには度肝を抜かれた。
聞き分けが良く大人しい彼女が、祖父母の言いつけを破るなんて思いもよらなかったからだ。
でもその一方で、それでこそ姉の子だ、とも思った。
いつしか少女は自分と同じ
それは嬉しくもどこか心痛む。
いつか彼女の母の様に、本の為に、誰かの為にと命を落としてしまうのではないかと。
どうかそれまでに、もう一度彼女が生き残るための理由をーー
彼女が生き残るために、姉が懸けた命の為にも、進藤は祈りを込めて銃を握った。
銃は命を奪う。
銃は命を救う。
「弾を無駄にするな!
命が乗っていることを忘れるんじゃないぞ!」