本編 ーfirstー
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寮の自室のドアを閉めてから、ほうっとため息をついて、咲は玄関に座り込んだ。
入隊後1週間は座学を中心とした研修があり、それを終えていよいよ業務が開始し、今日で6日目。
ようやくの休みだ。
慣れないうちは何から何まで先輩と比べて時間がかかる。
二士だからと言って後れを取らないようにせねばと気も張っているからか、精神的にもとにかく疲れる。
防衛部としてのトレーニングも始まり、毎日筋肉痛だ。
たまたま食堂であった進藤は、来週になればもう少し慣れて楽になるだろうと、笑って言った。
確かに大変だ。
でも、これが自分が求めていた世界。
充実感はあれど、辛くはない。
よっこらしょ、と立ち上がり、重たい足取りで風呂の準備をして部屋から出た。
今年は入学者が奇数であるため、咲は2人部屋を1人で使っている。
昔からひとりでいる方が好きだったから、心の底から有難いと思った。
毬江のように気の合う友人など、そういるものでもないことだってわかっている。
できれば風呂もひとりで入りたいものだと思いながら、そのうち慣れる、と言い聞かせた。
入浴を終え、談話室を通り過ぎようとするとどこからか自分を呼ぶ声がする。
「咲ちゃーん、こっちこっち」
「笠原さん」
柴崎も一緒に自動販売機で飲み物を買っているらしく、ペットボトルを片手に咲の方をにこやかに見ている。
2人は何やら話しており、近くまで行くと郁がニッと笑った。
「せっかくだからさー、あたしたちの部屋、来ない?」
毬江以外とは今まで親しくしたこともなかったので、誰かと付き合うとなると若干面倒だな、と思いながらも、毬江と親しい二人なのだから彼女のように無理のない付き合いができるかもしれないとも思う。
何より先輩であるのに不愛想な自分にこうして声をかけてくれるのは、本来であれば何ともありがたい話だ。
「……よろしいんですか?」
「大歓迎!
好きなの選んでいいよ、今日は驕る!」
「いえ、申し訳ないですし」
「断るほうが申し訳ないってもんよ。
さ、どれにする?」
「すみません、ではお言葉に甘えて……」
咲は有名な乳酸飲料を選ぶ。
春限定のご当地果実をふんだんに使った甘酸っぱいイチゴ味なんだそうだ。
「意外、こういうの好きなのね」
「え……」
柴崎穏やかな表情でそう聞かれて、咲は逆に戸惑ってしまう。
「なんだか嬉しそうな顔してボタン押していたから」
にっこり、と微笑む様子に、美女は何をしても様になるな、などと思った。
それから、少し考えてから口を開く。
「はい」
これだけでは素っ気ないだろうか、でも自分の思い出話をするほどまだ親しくもなく、ではどうすればいいのだろうなどと考えていると、郁が間に入ってきた。
「私もこれ好きでね、これもこの前飲んだけどおいしかったよ」
自然な助け船に心の中で安堵の溜息をついて、初めてこの乳酸飲料をくれた人を思い出す。
まだ小学生だった頃、うっかりぶつかって足を擦りむいた咲に、不愛想な顔に精一杯の笑顔を浮かべて差し出された缶ジュース。
きっとくれた人はそんな些細なことなど忘れてしまっているだろうが、咲にとってそれは大切な思い出だ。
歩き出す先輩の背中に微かに目を細める。
手の中には懐かしい乳酸飲料。
二人はやはり似ていて優しい人だ、と思った。
それは秘密
入隊後1週間は座学を中心とした研修があり、それを終えていよいよ業務が開始し、今日で6日目。
ようやくの休みだ。
慣れないうちは何から何まで先輩と比べて時間がかかる。
二士だからと言って後れを取らないようにせねばと気も張っているからか、精神的にもとにかく疲れる。
防衛部としてのトレーニングも始まり、毎日筋肉痛だ。
たまたま食堂であった進藤は、来週になればもう少し慣れて楽になるだろうと、笑って言った。
確かに大変だ。
でも、これが自分が求めていた世界。
充実感はあれど、辛くはない。
よっこらしょ、と立ち上がり、重たい足取りで風呂の準備をして部屋から出た。
今年は入学者が奇数であるため、咲は2人部屋を1人で使っている。
昔からひとりでいる方が好きだったから、心の底から有難いと思った。
毬江のように気の合う友人など、そういるものでもないことだってわかっている。
できれば風呂もひとりで入りたいものだと思いながら、そのうち慣れる、と言い聞かせた。
入浴を終え、談話室を通り過ぎようとするとどこからか自分を呼ぶ声がする。
「咲ちゃーん、こっちこっち」
「笠原さん」
柴崎も一緒に自動販売機で飲み物を買っているらしく、ペットボトルを片手に咲の方をにこやかに見ている。
2人は何やら話しており、近くまで行くと郁がニッと笑った。
「せっかくだからさー、あたしたちの部屋、来ない?」
毬江以外とは今まで親しくしたこともなかったので、誰かと付き合うとなると若干面倒だな、と思いながらも、毬江と親しい二人なのだから彼女のように無理のない付き合いができるかもしれないとも思う。
何より先輩であるのに不愛想な自分にこうして声をかけてくれるのは、本来であれば何ともありがたい話だ。
「……よろしいんですか?」
「大歓迎!
好きなの選んでいいよ、今日は驕る!」
「いえ、申し訳ないですし」
「断るほうが申し訳ないってもんよ。
さ、どれにする?」
「すみません、ではお言葉に甘えて……」
咲は有名な乳酸飲料を選ぶ。
春限定のご当地果実をふんだんに使った甘酸っぱいイチゴ味なんだそうだ。
「意外、こういうの好きなのね」
「え……」
柴崎穏やかな表情でそう聞かれて、咲は逆に戸惑ってしまう。
「なんだか嬉しそうな顔してボタン押していたから」
にっこり、と微笑む様子に、美女は何をしても様になるな、などと思った。
それから、少し考えてから口を開く。
「はい」
これだけでは素っ気ないだろうか、でも自分の思い出話をするほどまだ親しくもなく、ではどうすればいいのだろうなどと考えていると、郁が間に入ってきた。
「私もこれ好きでね、これもこの前飲んだけどおいしかったよ」
自然な助け船に心の中で安堵の溜息をついて、初めてこの乳酸飲料をくれた人を思い出す。
まだ小学生だった頃、うっかりぶつかって足を擦りむいた咲に、不愛想な顔に精一杯の笑顔を浮かべて差し出された缶ジュース。
きっとくれた人はそんな些細なことなど忘れてしまっているだろうが、咲にとってそれは大切な思い出だ。
歩き出す先輩の背中に微かに目を細める。
手の中には懐かしい乳酸飲料。
二人はやはり似ていて優しい人だ、と思った。
それは秘密