本編前
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昔は一緒に買い物に行っていた祖母は、脚が悪くなって滅多に家から出なくなった。
いつのまにか、買いものは咲の仕事になっていた。
食事はまだ作ってくれることが多いが、咲もずいぶん上達して、手伝えることも増えた。
いつかやってくる未来を思い、祖母はいつも自分に手伝いをさせ、厳しく躾けをする。
それに気づいた時はどこか寂しく、でも、自分は祖父母なしでも生きていけるだけ強くならなければならないと思った。
(今日はこれで全部)
少し離れたスーパーの方が安くて、いつからかそちらに通うようになった。
今日は特売日で荷物も多い。
リュックサックを活用することを覚えたのも、安いスーパーを見つけたころからだった。
トイレットペーパーで足元が見えにくい。
「小牧お兄ちゃん、ここに子猫がいたんだけど……」
聞き覚えがある声だ。
そうだ、この前、誕生日だった女の子。
小学校でも見たことがある。
お人形さんみたいにかわいくて、みんなに人気の、眩しい子。
「にゃぁ」
足元で急に声がして、咲は驚く。
足になにか柔らかい感覚があって、踏んではいけないと思うと足が絡まってしまって。
「っ!」
尻もちをついた。
視界の端で三毛猫の子猫が走っていくのが見える。
女の子の方へ、だ。
「みーちゃん!」
嬉しそうに抱き上げている。
咲はその様子に安堵のため息をつくと、パンパン、とお尻についた砂を払って立ち上がる。
今日は卵を買っていないからよかった。
リュックサックを背負い直し、トイレットペーパーを拾おうとして、そのトイレットペーパーが宙にういたのに従って、咲は視線を上げる。
トイレットペーパーをもつ手をたどった、自分の身長よりも上に。
「大丈夫?」
申し訳なさそうに微笑む、その顔は図書館で何度か見かけた、あのどじょー改め堂上と一緒にいるーー小牧だった。
相手も気づいたらしい、あっ、と言うように眉を上げた。
「……ありがとう、ございます」
咲はなんだか居心地が悪くて、受け取るとすぐにその場を離れようとする。
「お買いものに行っていたの?」
不意に柔らかい声がかけられた。
小牧の後ろから顔を出すのは、“毬江ちゃん”、だ。
その2人の姿は、西日のせいかひどく眩しくて、咲は目を細めた。
(私とは、違う世界の人だ)
物語に出てくるような、きれいで、優しくて、柔らかな世界の、人。
「……はい」
「いいなぁ、私も連れてってっていうのに、お母さん私が学校に行ってる間に行っちゃうんだよ。
私が行くとお菓子欲しがるからって!
あれ?あなたのお母さんは?」
咲は首を振った。
「お買い物は私の担当なんです」
「どういうこと?」
「毬江ちゃん」
小牧さんが容量を得ない毬江ちゃんの言葉を遮った。
「偉いね。
引き止めてごめんね」
私は首を振ってから、頭を下げ、歩きだす。
たった独りで。
私は家に帰る