本編前
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図書館まで来た時だった。
門をくぐろうとして、急に勢いよく誰かにぶつかって弾き飛ばされた。
「っ!!」
強かにぶつけたお尻をさすりながら身体を起こし、後ろを振り返ると、自分にぶつかったであろう男が走っていくのが見える。
道路を危なそうに渡っていくが、途中でかばんから本が落ちてしまった。
古そうな本で背表紙が取れかかっているのが、目に焼き付いた。
エンジン音に右手を見れば、向こうから車が来る。
このままでは轢かれる。
本が、轢かれる。
(あれは轢かれちゃだめだ!)
古い本、壊れかけの本、たくさんの人が触れてきた本。
つまりそれは、たくさんの人の思い出が詰まった本。
咲の体は自然と動いていた。
「道路の向こうだ!
捕まえろ!!」
駆けだした時、後ろから声がしたが、右から左へと抜けていく。
咲は全速力だった。
ランドセルの中で、教科書がカタンカタン、とリズムを刻む。
「子どもがっ!!」
悲鳴のような声も聞こえた。
そのころには咲は道路の真ん中にいて、つんのめりかけながら本を拾い上げた。
警笛が鳴り響いた。
急ブレーキをかける音。
咲は無我夢中で足を動かし、本を抱きしめたまま半ば転がるようにして道路の向こう側に渡りきった。
急ブレーキをかけている運転手に、子どもが無事だったことを横目で確認した稲嶺は告げた。
「そのままで。
追いましょう」
長年の付き合いになるドライバーは、はい、と返事をすると、すぐにブレーキをアクセルに踏みかえる。
足で走って逃げているだけなのだ。
追いつくのは容易い。
稲嶺は足が悪いため捕まえるわけにはいかないが、柔道黒帯のドライバーは簡単に男を捕まえてくれた。
もしもの時のためにと用意しておいた手錠をかけ、図書隊に連絡を入れる。
すぐにもう一台車が来て、男を後部座席に乗せて帰って行った。
「戻ってもらえますか」
稲嶺の言葉に、ドライバーは車はUターン出来る場所を探しはじめた。
運命のいたずら