本編前
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ひやり
本をたくさん抱えて階段を降りたら、足を滑らせた。
(本が傷ついちゃう!)
ぎゅっと本を抱きしめる。
「おおっと」
降ってきた声と、予期していたのとは違う、温かい感触。
「大丈夫か?」
どこかで聞き覚えのある声。
あっと思って顔をあげれば、相手も気づいたようだ。
「お前!」
思わず上げた声に、人の視線が集まったので、助けてくれた人は私を抱えて読み聞かせ室に駆けこんだ。
降ろされた時に足が痛んだのは、きっとくじいてしまったからだろう。
「どうした、足が痛いのか?」
怒られるかと思ったのに、予想外に心配されて、咲は戸惑う。
叔父さんはどれどれ、と靴を脱がせて様子を見ている。
「くじいたかもな、ちょっと待っ」
「私は大丈夫、でも、本が少しよれちゃって……」
慌ててそういえば横に置いた本を触った。
強く抱きしめたせいだろう。
ソフトカバーの本に少し型がついている。
「このくらい大丈夫だ。
ちょっと待ってろ」
困ったように笑ってから部屋を出ていってしまった。
(にげたほうがいいな……?)
少し考えるけれど、これだけのことをしてもらっているのに逃げるわけにはいかない気がした。
しばらくすると救急箱を抱えた叔父さんが帰ってきた。
湿布を箱から取り出し、足に器用に貼ってくれる。
「咲、おじいちゃんとおばあちゃんは、ここにきていること知っているのか?」
俯いたままで表情は見えないが、怒っていないことは声色で分かった。
それでも咲は、小さく謝った。
「……ごめんなさい」
自分を育ててくれている祖父母が、この図書館に来ることは禁止している。
叔父である進藤がそのことを知らないはずもない。
「まぁ仕方ねぇか……あの2人の子だもんなぁ」
叔父さんは膝をついて咲と同じ目線になると、しばらく考え込み、そしてにやりと笑った。
「よし、黙っておいてやるから、お前も見つからないように上手くやれよ」
それから大きな手でわしゃわしゃと髪を撫でてくれた。
お正月やお盆にしか会えない叔父の、大好きな仕草だった。
くすぐったくて目を閉じた