「はぁ！？
　人違い！？」

「「煩いっ！」」

柴崎と同時に叫ぶ。
昼食時、一瞬集まった視線は次第にバラけて行った。
唯ですら注目されやすい柴崎との食事なのだ。
必要以上に注目を集めるのは避けたい。

「で、もちろん説明してくれるわけよね？」

パスタをきれいに巻きながら、柴崎がさらりと尋ねる。

「あいつド近眼だからな。
　熱と脱水状態で判別できなかったんだろ。」

カレーをパクリと食べる。
食堂のカレーは甘口と辛口が選択でき、味もなかなかいいため好評だ。

「それで人気者の咲ちゃんを堪能した、と。」

柴崎が意地悪そうに言う。
これだから面倒なのだ、女は。
兄貴の女に手を出すはずがないと、言えたらどれだけ楽か。

「でも、良く突き飛ばさなかったね。」

ぽつりと呟いた笠原に、俺は思わず目を見開く。

「だってほら、いくら知り合いでも抱きつかれたら、こう・・・突き放すっていうか・・・。
　そういう行動に出ちゃうじゃない？」

妙なところで鋭くなる笠原に、頭を抱える。
柴崎の目がじっと俺を見ているのは、真偽を見分けようとしているからだろう。
睨んでやればにっこりと営業スマイルを向けられた。
この、針のむしろ状態、なんとかならないものか。

「なんでも脊髄反射で動くのはお前くらいだ。
　病人相手だぞ。」

なんとかかわすと、笠原は腹を立てたが柴崎の方は納得したらしい。

「ずいぶん優しく寝るように言い聞かせていたじゃない？
　口調も何となくいつもと違ったような・・・。」
「そう言われてみればそんな気も・・・。」

鋭い言葉に、水を飲みかけていた俺はむせてしまう。
柴崎の目が、光る。
これはまずい。

「あんた、知ってるんじゃないの？
　咲のカレシ。」

「知ってるわけないだろ。」

もうこれでいいだろう。
むしろこれ以上いたら何をしゃべらされるかわかったもんじゃない。
俺は立ち上がり、お盆を手にする。
まだ半分ほどしか食べていない笠原を睨みつけた。

「笠原、午後一で巡回だ、遅れるな。」

「わ、分かってる！」

食器を返しに行く俺の背中に、柴崎のため息が聞こえた。

「仕方ないわねぇ。
　今日はこのくらいにしといてやるわ。」

今日は、というあたりに、相手の恐ろしさを感じる。







「でもさ柴崎。
　なんで人違いって分かったんだろうね。」

冷めかけの天津飯を口に運ぶ笠原の疑問はもっともだ。
だが、考えれば分かる。

「名前でも呼んだんじゃない？」

「それでその人の真似をしたってこと？
　あいつ、そんなに機転働いたっけ・・・。」

それもそうだ。
自分ではないと説明していそうなものを。
しかも後輩の恋愛事情に首を突っ込むタイプの男でもない。

そんな彼が首を突っ込んだ理由は？

間接的に絡んでいるのではないか。
その関係を良好にしたいと言う思いが、潜在的にあるのではないか。
手塚があの程度の真似でカバーできる男は、誰か。

答えは見えそうで、でも。

（あいつはそれを、隠したいのかもしれない。）









もし、女子寮メンバーに言い訳するなら