それから
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ふとしたときに立ち寄る公園がある。
木立の中にベンチがある、小さな公園。
何年も通い続けている場所。
ベンチに腰掛け、缶コーヒーをあけた。
弟の息子は、くしゃくしゃしていて、小さくて、壊れそうだった。
恵まれた両親の間で、きっと幸せになるだろうと思った。
その時、咲のことを思い出した。
こうして生まれたときには、両親を亡くしていたはずだ。
図書館で亡くした。
(そして彼女もきっと“図書館に殺される”。)
弟の言葉は嘘ではない。
誰かから守られることを拒み、彼女は全てを図書館に捧げるのだ。
心も身体も、命さえ。
(彼女を守れれば、どんなにいいか。)
銃を規制しても守れない。
安全な部署に異動させても守れない。
彼女の心がそれを拒む。
図書館を一番にしなければ、気がすまない。
頑ななまでの彼女の心を溶かす方法など、慧には見当もつかず、その方法を探している間に彼女を失ってしまうだろう。
頭を抱える。
人前では決して見せない姿だ。
でもどうしようもなかった。
一回り以上も年下の女を落とすこともできず、諦めることもできないなんて、最近まで気づきもしていなかった。
彼女の図書館に向けられる純真な思いが、自分に向けられていると錯覚さえしていた。
(愚かだ。)
彼女の恋心は、彼女自身によって無惨に踏みにじられた。
(図書館よりも、俺を優先した自分など、彼女は許せないのだ。)
「慧さん!」
不意に呼ばれた名前は、切羽詰まっていて、駆け足のようだった。
慧は目を見開く。
「どうして・・・。」
風にさらわれそうな声だった。
それが彼の声だなんて、誰が聞いても笑うだろう。
「もし、」
目に涙をためた様子は、つい先日と同じなのに、今の彼女はどこかほどけたように柔らかいは表情をしていた。
「もし、本がなければ、私達は出会うことはなかった。」
小さな出会いを、咲も慧も、忘れてなどいなかった。
「図書館がなければ、貴方を何よりも愛せた。」
咲は目を閉じた。
「そう思っていたました。
でも・・・ごめんなさい。」
呟くような謝罪。
再び開いた瞳は、決意をにじませていた。
「慧さんが何よりも図書館を大切にするなら、私はもう、貴方に近づきません。」
慧は思わず立ち上がった。
「どうして・・・。」
咲は悲しそうに笑った。
「私はもう、図書館を一番にできないから。」
慧は目を見開く。
「どうやったって無理だったんです。
何度もあの場所で貴方を撃つ自分を想像しようとしました。
でもダメなんです、貴方を撃つなんて、できない。
図書館がなくなると言われても、貴方を撃つことなんて、私にはできない。
・・・図書館のために、慧さんがそれを強く望んでいたとしても。」
自分達は何よりも図書館を守るために尽くしてきた。
だからこそ、二人は強く強く心を通わせたと思っていたし、事実そうだっただろう。
そしてお互いにそれを痛いほどわかっているからこそ、こんな単純な擦れ違いに気づかなかった。
互いが、互いの一番は図書館なのだと、そう思い込んでいたのだ。
(・・・馬鹿だな。)
慧は情けなく笑った。
そして今度は口に出して言った。
「馬鹿だな、俺達は。」
咲は目を瞬かせる。
慧は真っ直ぐ咲を見おろした。
小さな彼女は産まれてからずっと、たくさん傷つきながら歩んできた。
自分の守りたいものを、守るために。
必死に努めてきた彼女を誰が幸せにしてあげられるのだろう。
「君の一番は図書館だと思っていた。
・・・だから君の一番を守るためならば君に撃たれても良いと思ったんだ。」
慧はこほんと咳払いをして、少し畏まった顔をしてみせた。
咲は目を見開いて固まっている。
その様子がおかしくて、愛しくて、思わず微笑んだ。
「泣く子も黙る副館長の私が、これほど愛を囁いているのに、君は状況が理解できないらしい。」
咲はようやく状況を理解し、かぁっと耳まで赤くした。
「すべて片付いたら迎えに行く、とは言ったがどうやらそれでは埒があかないようだ。」
思わず溜め息をつく。
道程は遠く、険しいのだ。
「共に夢を叶えよう。
それはもちろん、どちらかの犠牲に成り立つようなものじゃなくて、自分達自身も幸せになれるような形で。」
慧はそっと手を差し出した。
まるで不器用で初々しい恋のように。
「だから、誰よりも近い場所で、一緒に戦ってくれませんか?」
返事はもちろん
fin.
2018.8.24
木立の中にベンチがある、小さな公園。
何年も通い続けている場所。
ベンチに腰掛け、缶コーヒーをあけた。
弟の息子は、くしゃくしゃしていて、小さくて、壊れそうだった。
恵まれた両親の間で、きっと幸せになるだろうと思った。
その時、咲のことを思い出した。
こうして生まれたときには、両親を亡くしていたはずだ。
図書館で亡くした。
(そして彼女もきっと“図書館に殺される”。)
弟の言葉は嘘ではない。
誰かから守られることを拒み、彼女は全てを図書館に捧げるのだ。
心も身体も、命さえ。
(彼女を守れれば、どんなにいいか。)
銃を規制しても守れない。
安全な部署に異動させても守れない。
彼女の心がそれを拒む。
図書館を一番にしなければ、気がすまない。
頑ななまでの彼女の心を溶かす方法など、慧には見当もつかず、その方法を探している間に彼女を失ってしまうだろう。
頭を抱える。
人前では決して見せない姿だ。
でもどうしようもなかった。
一回り以上も年下の女を落とすこともできず、諦めることもできないなんて、最近まで気づきもしていなかった。
彼女の図書館に向けられる純真な思いが、自分に向けられていると錯覚さえしていた。
(愚かだ。)
彼女の恋心は、彼女自身によって無惨に踏みにじられた。
(図書館よりも、俺を優先した自分など、彼女は許せないのだ。)
「慧さん!」
不意に呼ばれた名前は、切羽詰まっていて、駆け足のようだった。
慧は目を見開く。
「どうして・・・。」
風にさらわれそうな声だった。
それが彼の声だなんて、誰が聞いても笑うだろう。
「もし、」
目に涙をためた様子は、つい先日と同じなのに、今の彼女はどこかほどけたように柔らかいは表情をしていた。
「もし、本がなければ、私達は出会うことはなかった。」
小さな出会いを、咲も慧も、忘れてなどいなかった。
「図書館がなければ、貴方を何よりも愛せた。」
咲は目を閉じた。
「そう思っていたました。
でも・・・ごめんなさい。」
呟くような謝罪。
再び開いた瞳は、決意をにじませていた。
「慧さんが何よりも図書館を大切にするなら、私はもう、貴方に近づきません。」
慧は思わず立ち上がった。
「どうして・・・。」
咲は悲しそうに笑った。
「私はもう、図書館を一番にできないから。」
慧は目を見開く。
「どうやったって無理だったんです。
何度もあの場所で貴方を撃つ自分を想像しようとしました。
でもダメなんです、貴方を撃つなんて、できない。
図書館がなくなると言われても、貴方を撃つことなんて、私にはできない。
・・・図書館のために、慧さんがそれを強く望んでいたとしても。」
自分達は何よりも図書館を守るために尽くしてきた。
だからこそ、二人は強く強く心を通わせたと思っていたし、事実そうだっただろう。
そしてお互いにそれを痛いほどわかっているからこそ、こんな単純な擦れ違いに気づかなかった。
互いが、互いの一番は図書館なのだと、そう思い込んでいたのだ。
(・・・馬鹿だな。)
慧は情けなく笑った。
そして今度は口に出して言った。
「馬鹿だな、俺達は。」
咲は目を瞬かせる。
慧は真っ直ぐ咲を見おろした。
小さな彼女は産まれてからずっと、たくさん傷つきながら歩んできた。
自分の守りたいものを、守るために。
必死に努めてきた彼女を誰が幸せにしてあげられるのだろう。
「君の一番は図書館だと思っていた。
・・・だから君の一番を守るためならば君に撃たれても良いと思ったんだ。」
慧はこほんと咳払いをして、少し畏まった顔をしてみせた。
咲は目を見開いて固まっている。
その様子がおかしくて、愛しくて、思わず微笑んだ。
「泣く子も黙る副館長の私が、これほど愛を囁いているのに、君は状況が理解できないらしい。」
咲はようやく状況を理解し、かぁっと耳まで赤くした。
「すべて片付いたら迎えに行く、とは言ったがどうやらそれでは埒があかないようだ。」
思わず溜め息をつく。
道程は遠く、険しいのだ。
「共に夢を叶えよう。
それはもちろん、どちらかの犠牲に成り立つようなものじゃなくて、自分達自身も幸せになれるような形で。」
慧はそっと手を差し出した。
まるで不器用で初々しい恋のように。
「だから、誰よりも近い場所で、一緒に戦ってくれませんか?」
返事はもちろん
fin.
2018.8.24
