それから
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「手塚そっくり!」
「でかい声だすな。」
「あっごめん。」
「将来が楽しみだな。
ほら。」
堂上夫妻に促され、二人の間から光の腕のなかを覗くと、確かに父親にそっくりの赤子が眠っていた。
もちろん赤子だから大きさがまず小さくて、顔もとびきり幼いし、髪の毛も疎らだ。
それでも父親が光だとわかるくらいに似ているのだから面白く、光が妙にどや顔なのもまた面白い。
「抱いてみなさいよ。」
麻子が咲に近寄って腕をとる。
「腕をこうして、頭を肘にのせるのよ。」
「えっ、ちょっと待ってください、」
「大丈夫だ、落ち着け。」
「う・・・わっ・・・」
光の手から預けられた赤子を慌てて落とさないように抱え込む。
力を加えれば潰れてしまいそうで、でもしっかり抱かないと落としてしまいそうで、腕の中のふわふわとした生き物の扱いに早くも困った。
その様子に夫婦はそれぞれ微笑み合い、堂上夫妻は郁の腹の中にいる我が子に思いを馳せた。
「か、わいい・・・」
赤子は猿のようだとか聞いたことはあったが、不思議と愛おしく、見た目云々ではなく、その存在こそが愛おしいと思う。
自分にもこんな頃があったなんて、とてもじゃないが信じられない。
「本当にかわいい。」
「なんか危なっかしいわねぇ。」
「だが兄貴よりよっぽど上手だ。」
その言葉に思わず肩が跳ね、寝ていた赤子が目を覚ましてしまった。
頼りなげに泣き出して咲があまりにおろおろするので、麻子が笑いながら息子を受けとる。
「驚いただけよ。
ほら大丈夫よ、よーしよし。」
明るく柔らかな麻子の声に、赤子の泣き声は次第に小さくなった。
「私はだっこは諦める。
泣かれたらショックだもん。」
くすりと郁が笑った。
光が言った『兄貴』の言葉は誰もが無かったことのように振る舞っていた。
光は間違いなく咲の反応を見るためにその言葉を出したのだろうが、それ以上は誰もなにも言わなかった。
「産むの痛かった?」
「死ぬかと思ったわよ。」
「うわぁ、嫌だなぁ・・・」
「でも外に出してあげる他ないからね。」
麻子がそっと郁のお腹を撫でた。
「楽しみね。」
「うん。」
社宅だと言う手塚邸の明るいリビング。
南向きの窓からさんさんと光が入る。
人一倍整った顔立ちの二人は、今までにはなかった慈愛に満ちている。
両親を生まれたときには亡くしていた咲にとって、自分が生まれたときにはなかった景色は、あまりに温かく眩しい。
咲の肩に手を置く郁。
なにも言わないけれど、ここに、この明るい仲間の中に、咲がいるのだと教えてくれる。
自分はこうして迎え入れてはもらえなかったけれど、迎え入れる側に立っているのだ。
それが、堪らなく嬉しい。
溢れてくる涙を止めることはできなかった。
しゃくりあげる咲の背中を、郁が優しく撫でる。
図書館によって奪われたものが、また、図書館によって咲にもたらされたのだ。
言葉にならない思いに、ただただ溢れる涙を拭う。
「わ、たし、この子に、しあわ、せに、なって、ほ、しい。」
「ありがとう。」
「ふ、たり、の、あいだ、で、あた、たかく、す、こや、かに。」
「ああ、もちろん。」
「いっぱい、いっぱい、しあわ、せに!」
「はいはい。
もう、しょうがないんだから。」
麻子がティッシュを差し出し、穏やかに笑う。
「あんたもしあわせになればいいのよ。」
「・・・ぇ?」
要領を得ないとでも言うように、咲が涙でかすむ視界で麻子を見る。
「私達や、この子と同じように。
図書館のお陰であなたもしあわせになってしまえば良いのよ。」
ダメな妹を見るように、麻子は優しい眼差しを向けた。
誰もあんたを咎めやしないんだから
