それから
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戸惑う堂上から指示はない。
ただ、咲をこぼれそうなほど見開いた目で見つめている。
彼に容易く指示を出せるはずがない。
咲が撃とうとしているのがどこであれ、的は妊娠している妻なのだ。
そして皮肉にも撃つことで命を守ろうとしている。
歯を食い縛り恐怖に耐える妻の姿に、堂上は怒りを抑えきれない。
郁の後ろには沢山の参加者がいる。
郁を外してしまえば、彼女たちに弾が当たる可能性がある。
となれば確実に郁を撃つしかない。
(くそっなんで郁なんだっ!!!)
廊下が騒がしくなる。
咲は嫌な予感がした。
「待ちなさい」
かけられた声に堂上も咲も反射的に振り返った。
「副館長……」
言葉にならない咲のとなりで、堂上がぽつりと呟いた。
「待ちなさい」
慧は静かにそう言った。
そして部屋に一歩踏み込む。
「来てはいけません!」
咲が短く叫び、慧は足を止めた。
「その通りだ。
だがもう遅い」
男はニヤリと笑った。
「おい女、選ばせてやる。
副館長の心臓とこの妊婦の左手と、どちらを撃つ?」
咲の顔は更に青ざめた。
「私を撃ちなさい」
静かな声に、咲は振り返る。
そこにはいつもと何も変わらない、副館長である慧がいた。
(彼がいなければ図書館は変われない。
彼の代わりはいない)
「悩んではいけない」
副館長は微笑んだ。
(彼でなければ図書館は守れない)
そして副館長は両手を緩く広げた。
(堂上二正を撃っても同じだ。
図書館は守れない。
ではどうすれば……)
「私を撃て」
知的な黒い瞳が、咲を写していた。
「命令だ」
咲は小さく震えていた。
(最善は……心臓を撃ち抜いたように見せかけること)
運が良ければ、彼は防弾チョッキを着ている。
咲は震える手で銃を構える。
「お、お前っ」
堂上が隣で息を飲む。
だが自分の妻が標的でなくなった代わりに、恋人を撃とうとする元部下にそれ以上かける言葉は持たない。
(大丈夫、撃つんだ、それが一番……)
咲は目の端から涙をこぼした。
震える唇から、吐息が漏れる。
苦しい苦しい、吐息が。
「撃て!」
男が喚く。
「撃ちなさい」
副館長が静かに命じる。
その言葉に、目眩がする。
手が震える。
足が震える。
こんなに震えていては、誤って防弾チョッキ以外撃ち抜いてしまうかもしれない。
その恐怖にさらに震える。
だめ、だ
