それから
名前変換
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「咲さん!」
資料を取りに図書館に向かう途中で名前を呼ばれ、振り返ると千鶴が手を振っていた。
彼女のお腹は、見る度にどんどん膨らんでいく。
「こんにちは。
本当に大きくなりましたね」
「はい」
千鶴が照れたように笑い、優しくお腹を撫でた。
「今日の講座に来てくださったんですね。
ありがとうございます」
「こちらこそ、教えていただけて良かったです」
にこにこと話す姿が可愛らしい。
(土方さんも幸福者だな)
せっかくなので会場まで同行することにする。
図書館の2階の会議室に絵本や妊娠中に関する本、育児本をたくさん搬入していたはずだ。
(それにお休みされている手塚二正や堂上二正も来られているはずだ)
彼女達のお腹も膨らんでいることだろうと嬉しくなる。
少しくらい顔をだしてもバチは当たらないだろう。
会場をちらりとのぞく。
移動できる本棚がいくつか搬入されていて、それぞれ
「育児に関する本」
「妊娠中におすすめの本」
「赤ちゃん向けの絵本」
等書かれた画用紙が側面に貼られている。
その絵本の本棚の隣に見慣れた姿を見つけ、咲は目を細めた。
近づいていくと相手も気づいたらしい。
「咲!久しぶり!」
「元気そうじゃない。」
久しぶりにかけられた声に頭を下げる。
「お久しぶりです。
お二人もお元気そうですね」
お腹の大きさは違えど、麻子も郁も明るい表情をしていて安心する。
千鶴に紹介しようと隣を見ると、麻子を見て驚いているようだ。
どうやら麻子も見覚えがあるらしい。
「こんにちは」
「……こんにちは」
千鶴はワンテンポ遅れて挨拶をした。
「知り合い?」
郁が首をかしげる。
「ええ。
リファレンスをしたことが何度か」
麻子が笑顔を作って答える。
千鶴のどこかそわそわした雰囲気に、土方との関係を疑っていた事を思い出す。
もしかしたら気になってリファレンスを頼んだのかもしれない。
そして麻子もただのリファレンスではなく、何か裏があっての事だと気づいての作り笑いだろう。
「お二人は私の先輩なんです。
堂上二正は特殊部隊時代の、手塚二正は情報部の」
「紹介するのに役職呼びはやめなさいよ」
麻子の突っ込みに確かにそうだと思ったときだった。
室内に男性が入ってきた。
男性対象のイベントではないため参加者も不思議そうな目で見ている。
(誰かの旦那様……?)
今回のイベントを担当しているであろう職員は室内にはいなかったので、咲が近づいて声をかける。
「こんにち」
咄嗟に受け身をとり、男の拳が鳩尾に入るのを防ぐ。
男を見れば多少は予想外だったのかわずかに目を見開いて咲を見つめた。
すぐに掴んだ手を捻り上げようと動くも、男に拒まれてしまう。
(まずいな)
相手は武術の心得がありそうだ。
状況に気づけば、郁か麻子辺りが携帯で通報はしてくれるだろう。
となれば、通報から防衛部が来るまでの時間稼ぎが咲の役目になる。
(無駄に暴れさせず、被害は小さくしなければ)
咲は手を掴んだまま足払いをかけるがかわされてしまう。
しかし身を捻った男の上着が捲れ、隠されていたものを見て目を見開いた。
(拳銃!?)
逆に腕をつかんで引き倒されそうになり、慌てて手を離して受け身をとる。
その拍子にまた見えた。
(しかも二丁!)
ガタンと床に打ち付けられても直ぐに体勢を立て直す。
だがその時間は相手に銃を構えさせるには十分な時間だった。
咲に向けられた拳銃に、呆気に取られて見ていた受講者達が一斉に悲鳴をあげながら咲達から離れるように、部屋の奥に逃げた。
「大丈夫、落ち着いてください」
郁の声が聞こえたので、向こうは任せることにする。
向けられた銃口を睨みながら咲は立ち上がる。
「動くな!」
咲といくらも年の変わらぬ若い男だった。
「狙いは何ですか?」
「お前所属は?」
咲は口をつぐむ。
「答えろ!」
照準を頭に合わせられ、咲は口を開く。
「業務部です」
咄嗟に嘘を付いた。
これは唯の勘だった。
「防衛部では?」
「違います」
「まぁいい」
男はニヤリと笑った。
そして空いている手で咲に拳銃を一丁投げつけるので、反射的に受けとる。
「扱いは分かるようだな」
恐れることなく銃をもつ手つきを見て、男は言った。
「向こうにいる奴を撃て」
男が顎で示すのは部屋の奥にいる参加者たちだ。
男の銃口は咲に向けられている。
要求が理解できず、咲は眉をひそめた。
「できなければお前を殺す」
「……なんのために?」
「理由なんてどうでもいいだろ。
早く撃て!」
ふと、何度か図書館に置かれた手紙を思い出す。
ー銃殺してやるー
咲は首を振った。
(こいつが犯人か)
「私を撃てばいい」
「馬鹿がっ」
男はニヤリと笑って発砲した。
焼けるような痛みが肩に走るが、銃弾が掠ったに過ぎない。
脅しだろう。
参加者が悲鳴をあげる。
「遣えねぇやつだ……」
動じることのない咲に、男は苦虫を噛み潰したような顔をした。
銃の重み
