本編 ーzeroー
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「送信完了」
仕上げた小説を添付したメールを送付の確認を終えて、画面を閉じる。
近づけば近づくほど、見えてくるものもある。
「たまにはこういうのも、ね」
「今回のもおもしろいね」
「でも急にちょっとハードボイルドな感じになったわね。
これはこれでおもしろいけど」
今回は雑誌の窃盗の話だった。
メディア良化法設立直前に出版された、メディア良化法案を批判する雑誌の盗難未遂事件の話だ。
図書館で盗難されそうになったところを取り押さえたのだが、男は刃物を持っており、主人公も危うく怪我をするところだった。
「続き読みたいなーっ」
「あんたはそればっかりね」
「この人の話おもしろいんだもん。
同じ人の本読みたいって思うのは当然でしょ」
いつかこの作者が表に出ることがあるなら、
それは図書館隊がきっと、過去の組織として物語られる時だろう。
恐らくそれは、褒められた歴史ではないだろう。
血と泥にまみれた、暴力の歴史と言われても否定できない。
(まぁそれも何十年も先の話、か)
そこまで考えてはいないであろう郁に、これがこの子のいいところなんだと、柴崎は笑みをこぼした。
数日後、図書館の一室に静寂を破るようにノックの音が響いた。
静かに開けられるドア。
「失礼します。
空太刀咲と申します。
よろしくお願いいたします」
はきはきとした、でも大きすぎない声。
年の割に落ち着いた雰囲気。
彼女らしい、と小牧は思う。
「どうぞ」
緒方の言葉に一礼してから部屋の中央に置かれた椅子に腰かけた。
どの隊員も、大抵一度は見覚えのある顔で、
咲個人としては晴れやかな気分だった。
正々堂々と、彼らと向き合う会うことができたのだから。
「入隊希望理由は何ですか」
この場に来たら言おうと決めていた言葉を、口に出す。
「気付かれた方も多いと思いますが、私は日野の悪夢の生き残りです」
緒方は小さくうなずいた。
彦江もじっと咲を見ている。
試験に関係する者の間では噂になっていたのだ。
日野の生き残りが、入隊希望をだしている、ということが。
「私は、祖父母に言われました。
図書館は、みんなのためにと武器を使う。
社会のためと言って、人に血を流させる。
仲間の血も、敵の血も。
それで正義を語るが、そんなこと間違っている」
面接室は、水を打ったように静まり返っていた。
「だから、図書館と関わるな、と」
自分が空太刀夫妻の親でもそう言ったかもしれない、
彦江は彼女の黒い瞳を見つめた。
視線に気づいた咲は、怖気ることなく彼を見た。
その目に、恨みや憎しみは見えない。
むしろ。
「私はずっと見てきました。
毎日図書館に通って、なぜ両親が図書館を守ろうとしたのか。
図書館に、両親が愛した何があるのか。
そして今も、一体どうして血を流しながら、図書館隊の人は図書館を守るのか」
彼女は、微かに目を細めた。
鋭い瞳であるはずなのに、どこか潤んでいるようにさえ見える。
「ここにはあるんです。
夢があるんです。
自分たちが消えることを意味するけれど、それがまた、自分たちの幸せを意味する、そんな夢が。
ここはただ本があるという無機物な場所ではありません。
本を媒介して人がつながる、未来を創るーー 血の通ったこの場所を、私は守りたいんです。
そしていつか、こんな特殊部隊なんて、無くして見せる。
誰かを傷つけなくていい未来を、一刻も早く」
試験官等にしたら、それはひどく若い言葉だった。
まだ高校生の、下手したら自分たちの子どもや孫と同じ世代の子が紡ぐ言葉は、幼さが残るほど素直で、だからこそ胸が抉られる思いがした。
膝の上で手が握られたのを、彦江は見た。
「私は叶えてみせます」
消えるという、夢
仕上げた小説を添付したメールを送付の確認を終えて、画面を閉じる。
近づけば近づくほど、見えてくるものもある。
「たまにはこういうのも、ね」
「今回のもおもしろいね」
「でも急にちょっとハードボイルドな感じになったわね。
これはこれでおもしろいけど」
今回は雑誌の窃盗の話だった。
メディア良化法設立直前に出版された、メディア良化法案を批判する雑誌の盗難未遂事件の話だ。
図書館で盗難されそうになったところを取り押さえたのだが、男は刃物を持っており、主人公も危うく怪我をするところだった。
「続き読みたいなーっ」
「あんたはそればっかりね」
「この人の話おもしろいんだもん。
同じ人の本読みたいって思うのは当然でしょ」
いつかこの作者が表に出ることがあるなら、
それは図書館隊がきっと、過去の組織として物語られる時だろう。
恐らくそれは、褒められた歴史ではないだろう。
血と泥にまみれた、暴力の歴史と言われても否定できない。
(まぁそれも何十年も先の話、か)
そこまで考えてはいないであろう郁に、これがこの子のいいところなんだと、柴崎は笑みをこぼした。
数日後、図書館の一室に静寂を破るようにノックの音が響いた。
静かに開けられるドア。
「失礼します。
空太刀咲と申します。
よろしくお願いいたします」
はきはきとした、でも大きすぎない声。
年の割に落ち着いた雰囲気。
彼女らしい、と小牧は思う。
「どうぞ」
緒方の言葉に一礼してから部屋の中央に置かれた椅子に腰かけた。
どの隊員も、大抵一度は見覚えのある顔で、
咲個人としては晴れやかな気分だった。
正々堂々と、彼らと向き合う会うことができたのだから。
「入隊希望理由は何ですか」
この場に来たら言おうと決めていた言葉を、口に出す。
「気付かれた方も多いと思いますが、私は日野の悪夢の生き残りです」
緒方は小さくうなずいた。
彦江もじっと咲を見ている。
試験に関係する者の間では噂になっていたのだ。
日野の生き残りが、入隊希望をだしている、ということが。
「私は、祖父母に言われました。
図書館は、みんなのためにと武器を使う。
社会のためと言って、人に血を流させる。
仲間の血も、敵の血も。
それで正義を語るが、そんなこと間違っている」
面接室は、水を打ったように静まり返っていた。
「だから、図書館と関わるな、と」
自分が空太刀夫妻の親でもそう言ったかもしれない、
彦江は彼女の黒い瞳を見つめた。
視線に気づいた咲は、怖気ることなく彼を見た。
その目に、恨みや憎しみは見えない。
むしろ。
「私はずっと見てきました。
毎日図書館に通って、なぜ両親が図書館を守ろうとしたのか。
図書館に、両親が愛した何があるのか。
そして今も、一体どうして血を流しながら、図書館隊の人は図書館を守るのか」
彼女は、微かに目を細めた。
鋭い瞳であるはずなのに、どこか潤んでいるようにさえ見える。
「ここにはあるんです。
夢があるんです。
自分たちが消えることを意味するけれど、それがまた、自分たちの幸せを意味する、そんな夢が。
ここはただ本があるという無機物な場所ではありません。
本を媒介して人がつながる、未来を創るーー 血の通ったこの場所を、私は守りたいんです。
そしていつか、こんな特殊部隊なんて、無くして見せる。
誰かを傷つけなくていい未来を、一刻も早く」
試験官等にしたら、それはひどく若い言葉だった。
まだ高校生の、下手したら自分たちの子どもや孫と同じ世代の子が紡ぐ言葉は、幼さが残るほど素直で、だからこそ胸が抉られる思いがした。
膝の上で手が握られたのを、彦江は見た。
「私は叶えてみせます」
消えるという、夢
