それから
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パソコンのキーボードの音と紙をめくる音だけがしている。
静かな静かな、いつも通りの執務室だ。
「どのくらい進んだ?」
土方の問いかけに咲と山戸は資料から顔をあげた。
「今3割程度です。」
「私は2割くらいです。」
「一回休憩するか。」
その言葉に山戸は伸びをし、咲も思い出したように肩を回した。
今の職場では机に向かっての細かい作業が大半を占めており、慣れない咲は必死になるので余計に疲れる。
たまには外で体を動かしたいと思ってしまう。
コーヒーメーカーのところに行って各々好きなカートリッジでコーヒーを入れる。
異動した頃は驚いたものだった。
特殊部隊の飲み物は基本、水かスポーツドリンクだったから。
「そういえぱ、新居はどうですか?」
山戸がさらりと土方に問いかけ、聞かれた方は顔をしかめた。
「なぜそれをお前が知っている。」
「お、当たった。」
爽やかに嬉しそうに笑う山戸に、土方は溜め息をついた。
「鎌掛けやがったか。」
「知ってるわけないじゃないですか。
土方さん、秘密主義ですから。」
「何かと面倒なんだよ。」
飽き飽きしたとでも言う顔で、彼は呟く。
モテる男は大変らしい。
咲の方も、あまり親しくない人が最近近寄ってくると思ったら、土方や山戸狙いであるケースも少なくはない。
「空太刀さんはずっと寮?」
「はい。」
「何かと面倒だよね。」
「そうですね。
もう長いので諦めていますが。」
「結婚して独身寮卒業したいとか思わない?」
「考えたことありませんでした。」
「そう?意外だなぁ。
山本くんという人がありながら。」
「山本ですか?」
「そう。」
にこやかに見つめられる。
こうして人はは秘密を話してしまうのかもしれない。
だが残念なことに。
「山戸さんが思っているようなことは何もありませんよ。」
にこやかに事実を返した。
「そうなの?」
「特殊部隊ってそんなもんです。
戦友、何て言うと大袈裟ですけど、仲間意識が強いからそう見えるだけだと思います。」
「堂上夫妻の例があるからさ。」
「あれは・・・私でしたらご遠慮したい関係ですけれど。」
「否定はしないけど。」
組み手の練習相手にもなる上司が夫だなんて、円満な夫婦生活は見込めそうにないと咲ならば思ってしまう。
「お前他人の恋愛事情に首突っ込むなんて女みたいだな。」
土方が呆れたように呟いた。
「売れるんですよ。
女性の情報網はすごいですから、こっちが面白そうなこと教えてあげるとそれ以上にいろんなこと話してくれるんです。」
土方はまた眉をひそめた。
「そっちの方が質が悪い。
・・・まぁそれでうちは助かっているんだが。」
「大丈夫ですよ、土方さんの新居のことは話しません。
僕の個人的な興味ですから。」
「ああそりゃどうも。」
咲はストックしてあるアーモンドチョコを摘まむ。
他の二人はあまり甘いものを好まないらしく、勧めてもと断られるため声をかけなくなった。
「そういや、副館長はどうなんだろうな。」
「謎なんですよね。
鎌かけたらなにされるかわかんないし。」
「返事は避ける。」
「あ、すみません。
そうえば空太刀さんって、5年くらい前に副館長庇って怪我しなかったっけ?」
「しました。
当麻先生の件の時だったと思います。」
しれっと返す。
「いくつの時だ?」
土方が会話に入ってきた。
「確か・・・二十歳です。」
「信じられん。」
「あの頃は大変でした。
・・・銃が検閲抗争で使えましたから。」
「あの頃は過激だったな。
何度地下シェルターに逃げたことか。
空太刀さんって、確か一番若い狙撃手だったんだよね?
って、君は何にしても一番若かったんだっけ。」
「はい。」
「そういえば茨城の県展の時には玄田隊長が蜂の巣になったって大騒ぎだったよね。
・・・って、二人とも知らないか。
入隊してました?」
「俺か転職してきた日にそれがあって、えらいところに来ちまったと思った。」
そりゃそうだろう。
前代未聞の大負傷だった。
「私は現場にいました。
確か当麻先生事件の前の年だったと思います。」
「はぁ?!」
二人が目を丸くするのが可笑しくて、咲は小さく笑った。
「現場ってその・・・」
「作品「自由」があった部屋です。
私、作品の後で掃除していたんです。
そうしたらマシンガン持った人が乱入してきて・・・
たまたま私、銃を返し忘れていて。
隊長が「撃てるもんなら撃ってみろ」って言うから」
「そんなこと言う?!」
山戸が思わず声をあげた。
「発砲許可です。
許可がないと私達撃てないんです。
相手にバレないように発砲許可出すにはそれしかなかったんだと思います。
・・・でもその代わり隊長は蜂の巣なって、私は相手の両手を撃ち砕きました。
県展の抗争はそれで終わり。」
二人は言葉を失っているようだった。
「その日は、蜂の巣事件までも酷かったんです。
相手の人数も多かったし、うちの死傷者も多かった。」
コーヒーを飲むと、その飲み込む音が聞こえるかと思うほど静かだった。
「だから、銃規制のありがたみは本当に感じているんです。
もうあんな誰かを盾にした撃ち合いは御免です。」
外から見ているだけでは分からないが、咲は今回の仕事にかなり思い入れがある。
何としてでも犯人を捕まえたいし、再発を防ぎたい。
「なるほどな。」
土方がにやりと笑った。
「じゃあ頑張りますか。」
山戸もにっこりと笑う。
「はい。」
守るべき掟
