それから
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「講演会当日は特殊部隊に会場警備を依頼しています。」
課長の説明に慧は頷いた。
今日のミーティングの内容は主に、月末にある副館長の慧の講演会の打ち合わせだ。
「こちらの図の通りの配置を基本とします。」
配置図を配る。
咲は副館長の警備がメイン。
特殊部隊のSPと連携しつつ、講演中は舞台袖で待機する。
何かあれば真っ先に動くことになっている。
慧は咲を見、それを感じて咲も彼を見た。
「流血事件にならないことを祈るよ。」
「それが仕事ですから。」
はっきりと、どこか挑むようにそう答えて、咲は営業スマイルを浮かべる。
それに答えるように慧も営業スマイルを浮かべる。
このやり取りは彼女が移動してから2回目になる。
一度目は別の図書館に講演のために足を運んだときだった
。
その時も、数年前彼を庇った時の事だとその場にいた皆がすぐに分かった。
報道されたこともあり、図書館ではかなり有名な話だったのだ。
そしてそれはタブーな話だと言う認識が課内にはあった。
それなのに当の二人はさっくりと話題にあげる。
しかも二人が妙に笑顔なのが周りにしたら気持ちが悪い。
課長はこほんと咳払いをしてからタイムスケジュールを指差した。
「空太刀君は講演会の開始30分前には副館長の護衛に入ります。
15分前には会場へ。」
「分かった。
報道への投げ込みの反応は?」
「現在連絡が入っている時点で7件です。
雑誌が2社、新聞が4社、テレビ1社です。」
「まずまずだな。」
広告塔としても働こうとする慧。
命を張って守ろうとする咲。
それは流血事件の時と何一つ変わらない姿勢だ。
だから二人は相容れない
課内誰もがそう思っていた。
「失礼します。」
ノックに続く聞き慣れた声に咲は驚いて入口を見、そちらに走る。
「どうされたんですか?」
「ミーティング中なのにごめん。
変な文書があって。
上司に報告したら急いで持って行けって。」
郁が差し出す白い封筒。
もう一度郁の顔に目を戻すと、特殊部隊らしく口を結び、強い瞳をしていた。
咲はそっと封筒を受けとる。
妙に重い気がした。
「見つけたのは15分ほど前。
返却棚にあった本を棚に返そうとしたとき。
絵本の間に挟まっていたの。」
小さな子が読む、昔からある小振りの絵本を郁は差し出した。
誰もが一度も読んだことのある絵本で、咲ももちろん知っている。
「わかりました。
ありがとうございます。」
「よろしくね。」
ちがう部署でちがう働き方をすることを選んだ。
郁には咲を手伝うことはできない。
咲は淡く微笑んで頷いた。
「お任せください。」
郁を見送ってテーブルに戻る。
「図書館で不審物が見つかったようです。
この絵本の間に挟まっていたようで」
再びノックの音がして咲は扉に向かう。
「失礼します。」
再び懐かしい声がして、目を瞬かせた。
「どうされたんですか?」
目の前に現れたのは夫の方の堂上だった。
「悪いな。
不振な文書が見つかってな。
西口の隣のチラシをおいてあるラックにあった。」
目の前に出された封筒に咲は目を見開く。
「同じ・・・。」
「何とだ?」
「中身も同じかな?」
課長が咲達の方を見たので、テーブルに戻り、中身を取り出す。
ー銃殺してやるー
新聞のスクラップで記された、あまりにも怪しい手紙。
達の悪い悪戯なのか、本当に殺害宣言なのか。
「中身も同じですね。」
「いつ誰をどうやって殺すつもりなのか。」
「うちは探偵ではないが、調べてみるか。
副館長。」
課長が慧を見る。
「もちろんそっちを優先してくれ。
なにかわかったらまた教えてくれるよう、よろしく頼むよ。」
そして彼は立って自室へと戻っていった。
「警察にも届けますか?」
「一応そうしよう。」
「警察が来る前に手紙と絵本の写真も撮っておいてくれ。
何かのヒントになるかもしれないからな。」
「警備室行って防犯カメラのデータもらってきます。」
咲の言葉に課長が頷く。
「よろしく。」
「では私もこれで。」
それに便乗する形で堂上が言った。
「ああ、ありがとう。」
「玄田隊長が、どんなことでも特殊部隊は全力で協力するので気兼ねなくお声かけくださいと言っていました。」
「玄田はそんな丁寧な口調ではないだろう。
だがわかった。
よろしく伝えてくれるかい?」
「はい。
では失礼します。」
咲と堂上は部屋を出る。
「お前のところの課長、うちの隊長の同期らしい。」
「え、そうなんですか。」
面識があるのが不思議なくらい、二人のタイプはちがう。
でもそれはやはり、郁と柴崎のようなものでもあるのかもしれない、思う。
「頼んだぞ。」
ぽん、と頭に手が乗った。
久しぶりでなんともむず痒い。
もと上司はにやりと笑っていて、彼ももしかしたら嬉しいのかもしれない、と思った。
お任せください
