それから
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同じ学年になったら面白いね、何て言っていたら、本当に同じ学年になってしまったようだ。
手塚が9月、堂上が2月予定だと言う。
(うちはまだ奥さん若いから。)
小牧はお祝いを選ぼうとネットであれこれ見ている若妻を眺めて微笑む。
そして彼女を見るとその友達を思い出す。
(うまくやっているだろうか。)
ぼんやりとしていると妻がくるりと振り返った。
「そういえば・・・
咲、大丈夫かな。」
同じ心配の種に、思わず微笑んだ。
「さぁどうだろう。」
その肩に手をおいた。
咲は手塚麻子が産休に入る日、特殊部隊を去った。
籍は確かにまだ特殊部隊にあるが、彼女が訓練に姿を見せることはなくなったし、図書館でも滅多に姿を見かけなくなったから、話すこともなくなった。
手塚班は解体となり、手塚は別の班に配属され班長ではなくなったが、見ている限り楽しくやっているようだ。
郁は業務部での仕事が中心となり、こちらも図書館内で時々見かける程度だが、それなりにうまくやっているようだ。
山本も新しい班に配属され、少しずつ馴染んできたようだ。
ーしっかりやってこい。ー
咲の異動当日、玄田はただそれだけしか言わなかった。
元々必要以上に語らぬ人だ。
だからその言葉はやはり当たり前で、今まで異動した隊員にも同じ言葉をかけていた。
ーはい。ー
敬礼する咲の姿は、訓練服ではない制服。
彼女は組織の人間だ。
上の判断に従って異動するのは当たり前の話。
それでも少しでも彼女の願いを叶えたいというのが、幼い頃から見てきた上司の思いである。
彼女の特殊部隊への思いは人よりも深い。
できることなら、彼女が望むままなにも変わらず居させてあげたかった。
それと同時に、彼女も前へ進まなければならないとも思った。
それは玄田も同じだったのだろう。
短いやり取りに、どれ程の想いが詰め込まれているかと考えると、苦しくなる。
失礼しました、と一礼して去っていく背中はやはり小さいが、やはりぴんと伸びていた。
ーなんだ、野郎ばかりに戻ったな。ー
玄田がポツリと呟き、それが元々だったと思い出した。
もしかしたら彼は、少し寂しかったのかもしれない。
咲や郁のことをひどく可愛がっていたから。
特に咲とは県展の蜂の巣事件があっただけに、深い絆で結ばれていただろうことは想像に容易い。
「でも麻子さんが咲を認めて、咲が異動になったなら、きっと大丈夫ね。」
妻の声に我に返る。
「咲のこと、麻子さん本当によく見てくれていたようだから。」
穏やかな微笑みに、ひとつ頷く。
「そうだね。」
「それに咲は確かに不器用だけど、真面目だし頭もいいし、新しい職場でもきっとうまく行くわ。」
自信に満ちた表情に、励まされている自分に気付く。
彼女の働きぶりは自分の方が知っているはずなのに、妻の方が咲を理解しているように思うのは、やはり友達と上司の違いだろうか。
「仕事そろそろ落ち着くかしら。
ランチでも誘おうかな。」
彼女の言う通り、もう異動してから1ヶ月以上経っていた。
「それはいいかもしれない。」
そう相づちをうてば、妻は笑った。
様子が聞けるかも、と思っていることはお見通しらしい。
山本は滴る汗を手の甲で拭った。
訓練に咲の姿が見えなくなって暫く経つ。
もうここに戻ってくることもないだろう。
これがこれからの当たり前なのだと言い聞かせているが、なかなか慣れそうにない気がしていた。
(でもこれで良かった、か。)
彼女が銃を構える姿は、無駄がなく、凛として美しかった。
腹に響く銃声までもが自分の撃つものとは違って聞こえた。
だがそれは同時に彼女が狙われると言うこと。
いったい今まで何度危険な目に遭っただろうか。
どれだけ傷を負っただろうか。
(それでも彼女は戦った。)
それはきっと今も変わらない。
得意な銃を捨て、情報戦を選んだ。
(俺達とは違う範囲で。)
彼女からの着信もなくなった。
ランチへ行くことももうない。
防衛部に所属する自分がいるのは図書館か訓練場か防衛部執務室で、情報部の彼女がいるのは最上階の情報部執務室だ。
他の場所にもいるのかもしれないが、見かけたことはない。
そのくらい、遠い距離になってしまった。
でも、これがこれからの日常。
同じ場所にあり続けることなど、あり得ない。
たくさんのことが変わっていく。
たくさんの人が変わっていく。
(きっとそんなもんだ。)
堂上も小牧も進藤も、何一つ様子は変わらない。
それが当たり前。
山本自身も他人から見ればそうあるように振る舞っている。
(きっとお前も、変わらないはずだ。
そうだろう?)
見えない背中
