それから
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最近よく見かける二人の背中を、男は顔色を変えることなく見つめる。
中庭を歩く男が頭を乱暴にかき混ぜ、女が楽しそうに笑った。
その様子がどこかの夫婦と似ていた。
部下とは尊敬する上司に似るものかもしれない。
「なんだ。
呼び出しておいて無視か。」
弟の不機嫌な声に、慧は名残惜しげに振り返る。
「お前からの報告を待っているのだが。」
穏やかな声に、光は苛立ちを募らせているようだ。
「せねばならない業務報告は全てしているはずだ。」
「その言葉に間違いはないかい。」
「俺からはな。」
「おや、俺にはお前の口から報告しないつもりか?
これは玄田一監や堂上一正にも言っておかねばなるまい。
手塚二正は報連相の意味をきちんと理解していないらしいと。」
「だから必要な業務報告は」
「誰かからか聞かなかったか?
礼儀として周りから上司の耳に報告が入る前に、自分で報告しなければならないと。」
「直属の上司には報告いたしました。
副館長殿に報告するほどのことではございませんので。」
「兄の面目丸潰れだぞ。」
「知ってるんだろ。
ならもう報告する必要はない。」
「全くもって、お前と言うやつは。」
慧は小さく笑った。
「お祝いは何がいい?」
「断る。」
「わざわざ角をたたせる必要はあるまい。
麻子さんとも相談して、遠慮なく言いなさい。」
光は視線を慧からずらす。
「・・・考えとく。」
こんなところは昔から変わっていないと思った。
(あのときは時計がほしいと言った。)
懐かしい笑顔を思いだし、微笑みを浮かべる。
「こっちも質屋に入れられないように気を付けて選ばないとな。」
そう言えば、光はやっと、小さく微笑んだ。
「だから、ここに赤ちゃんがいるの。」
「・・・え!」
遅れた反応に、柴崎は吹き出す。
「だから、後2か月で産休に入るから。」
「え・・・はい。」
冴えない反応に、柴崎はため息をついた。
「私、貴女にお祝いの言葉もらった?」
「い、いいえ!
おめでとうございます。」
慌てた言葉にニヤリと笑う。
ほんのりと膨らみ始めたお腹を、そっとさする手を、咲はじっと見つめた。
「・・・お母さん。」
「あんたの母親じゃないわ。」
「すみません、思わず・・・。」
手をもどかしく小さく動かしている様子が可笑しくて、また笑ってしまった。
「触ってもいいわよ。」
「本当ですか?!」
恐る恐る触れてくる手がくすぐったい。
「温かいですね。」
「そりゃ冷たくはないわよ。」
妹のような、不器用なこの子は、まだ気づいていない。
でも言わなければならなかった。
「産休とって、育休も取るの。
数年は帰ってこないわ。」
黒い瞳が、黙って柴崎を見上げた。
「あと2カ月。
あんたを情報部の私のポジションまで引き上げる。」
「どういうこと・・・」
「わかってるくせに。」
いつまでもお腹にのせられている手を払う。
自分のどこか後ろめたい気持ちも振り払うように。
(ま、何かあれば笠原副班長も、光もいるし。)
「班編成変わってすぐで申し訳ないけど、あんたはうちでの仕事の比重を増やしてもらう。
班長殿と笠原の許可は取ってあるわ。」
じっとお腹を触っていた手を見ているから、思わずため息をつく。
「聞いてるの?」
咲が手をきゅっと握って笑ったので、目を瞬いた。
「はい!」
その手を心臓に持っていって敬礼する。
咲にとっての母親の意味に、無意識に腹を優しく撫でていた。
(特殊部隊からいずれ異動になることは、さすがにまだ言えないわ。)
それを考える、柴崎の直属の上司が誰かと言うことも。
「そっか。
まぁ良かったんじゃね?
それって、認められたってことだろ?」
しょうが焼きを頬張る山本の言葉に、咲は首をかしげる。
「そう・・・なのかな?」
「戦える上に情報戦でも遣えるのはそりゃ便利だろ。」
咲は無言で白米を口にはこんだ。
「大丈夫かな・・・。」
「どうした?
お前なら喜びそうな話だと思ったんだけどな。」
咲はしばらく考えてから口を開いた。
「だって、今がなんだか大きく変わってしまう気がして。」
「たしかに柴崎さんが休むのはさみしいけどさ、それもまた1つのきっかけになるだろうな。」
咲は首をかしげる。
「なんの?」
「このままとどまってはいられねぇってこと。」
山本はニヤリと笑った。
おめでたきこと
