それから
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「ねぇ、ちょっと何、ぼーっとしちゃって。」
「申し訳ありません。」
心配そうに郁が咲の顔を覗き込んでいたので、慌てて掴みかけていたからあげを口に入れる。
「で、結局会ったの?」
柴崎が単刀直入に聞く。
「いいえ。
・・・一度遠目には見ましたが。」
「そう。」
簡素な返事とは裏腹にやや眉を寄せている。
彼女もどうやら気にしているらしい。
「人気だよね、副館長。
一緒に手塚もよく話題に上っているみたい。」
「ずいぶん迷惑がっていたわ。」
そうだろうことは、他の二人にも簡単に予想できた。
「連絡は?」
「お忙しいので。」
「あんたならそういうと思ったわ。」
食堂のプラスチックのコップでも、柴崎が持つと妙に様になるから不思議だ。
「相変わらずねぇ。」
ため息をついてコップをお盆に戻す。
「咲、ちゃんと言いたいことは言わなきゃ。」
心配そうな郁が咲を見つめる。
咲は弛く首をふった。
「ありきたりかもしれませんが、私、お荷物って思われたくないんです。
私達の関係は、そういうのではできてないから。」
「そういうのって?」
郁が眉を寄せた。
「何て言うか・・・
好きとか、会いたいとか、一緒にいたいとか・・・
あの人はそういうの望みませんから。」
「あんたはどうなの?」
柴崎が咲を見つめる。
「二人のことですから。」
「私はあんたのことを聞いてるの。」
咲は柴崎から目をそらした。
「手放さずにすむなら、手放したくない時もあるんです。」
早口にそういうとトレイを持って席を立った。
「大丈夫・・・じゃないよね。」
郁が心配そうにその背中を見送る。
「自分達で何とかしなきゃいけないところでもあるけど。
あの二人、仕事は器用だけとこういうことになるとどうもねぇ・・・。」
「厄介なことにならないといいけど。」
柴崎の呟きに郁は何度も頷いた。
―――閉館後の図書館が好き。
そんなことを昔、話したことがあった。
するとその人も、自分もそうだと言って優しく微笑んでいた。
閉館後の図書館の真ん中に独り立つと、自分も図書館の一部のような気がしてくる。
本の香りが立ち込め、本の息遣いまでもが聞こえてきそうな静寂。
咲は目を閉じた。
そうしているだけで、心が落ち着く。
カチャリ
鍵が開く音がして、咲は扉を振り返る。
ゆっくりと開いた扉の向こうに、彼がいた。
じっと立ちつくす咲を見た彼は、微かに微笑んだ。
その顔はテレビや雑誌で取り上げられているときの顔とは違う、ただの慧のときの顔で。
「やはりここか。」
ただその一言が、咲を温める。
咲も淡く微笑む。
薄暗い図書館の中で、静かに時が流れる。
ただそれだけのことが、咲にとってはとてつもなく幸せだった。
ふたりのすきなところ
