それから
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(何でお前が!)
壇上に上がった姿に喉元まで声が出ていた。
それを耐えたのは脇腹を思いっきり殴られたからだ。
そして殴ったのが郁だと気づき、その機転に驚くが、同時に。
(こいつが兄貴が新しい副館長打と知って、すぐに俺を黙らせなければならないと気づくはずがない。
・・・知っていたな?)
睨み付ければ郁は手塚が考えていることがわかったのだろう。
ぎこちなく笑った。
その隣にいる山本のさらに隣にいる咲の顔は間抜けそのもので、手塚は目を瞬かせる。
(知らせてなかったのかこいつにも!
この死ね馬鹿兄貴ッ!)
任命状を受け取った慧はくるりと振り返り、爽やかやな微笑んだ。
そしてその瞳が確実に光と咲を捕らえた。
すぐに飛んで行って胸倉を掴んでやりたいのを必死にこらえる。
「それでは着任されました手塚副館長からご挨拶をいただきます。」
柴崎改め手塚麻子のアナウンスに新副館長の話など、耳に入ってくるはずがなかった。
「やっぱり知らなかったの?」
「黙れ。」
着任式から解放され、 無邪気な郁の問いかけに手塚は苛立ちを隠せない。
「逆に聞くがなぜお前が知っているんだ。」
「朝正門から入ってくるのを見たの。
まさかとは思ったけれど・・・」
「朝!?
言うタイミングは何度もあっただろう!」
郁は肩をすくめて見せた。
「言おうかと思ったけど、確信は無かったし。
それに、別にいいじゃない、仲直り・・・まではいっていないけど、もう犬猿の仲でもないでしょ。」
思わず視線を鋭くする手塚。
「お前のその単純な頭にはわからないだろうな。
そうだ、お前のお母さんが寮監になったらどうだ?」
「やめてよそんな例え!」
「だろう。
そんなもんだ。」
それより、と郁は咲を振り返った。
うつむいてなにやら考え込んでおり、山本は心配そうに咲をちらちらとみている。
手塚と郁は思わず顔を見合わせた。
「・・・咲。」
躊躇いがちに郁が呼ぶと、はっと顔を上げ、淡く微笑んだ。
「どうされましたか。」
「どうしたって・・・。」
「急ぎましょう、見回り開始の時間まであと5分しかありません。」
郁と手塚の横を咲はすり抜け、一人階段を上がっていってしまった。
その背中はいつも通りで、彼女が何を考えているのか取り残された3人にはさっぱりわからない。
「・・・喜んで・・・いるんでしょうか。」
山本が小さく問う。
「うん・・・やっぱり嬉しいのかな。」
郁が呟くように返す。
「ここまできたら見守るしかないね。」
後ろから飛び込んできた声に3人は振り返る。
「小牧一正に堂上一正。」
振り返った先にはにこやかな小牧と、仏頂面の堂上の姿。
「あの子もずっと見守ってくれているわけだし。
危なっかしい堂上夫妻のことも、時間がかかった手塚夫妻のことも。」
恥ずかしげに視線を彷徨わせる手塚。
「危なっかしいのはそいつだけだ。」
「ひどい!」
眉間に皺をよせる堂上と、それに噛みつく郁。
「でも、そうっすね。
いいきっかけになるといい。」
山本の静かな呟きに、小牧は微笑んで一つうなずいた。
春だもの
