それから
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朝が来た。
数秒したらなるであろう目覚ましを止め、#咲
は起き上がり身支度を始める。
ケトルでお湯を沸かして紅茶を入れ、今日は朝が早いからと昨日のうちに買っておいたパンをかじる。
壁に掛けられたカミツレのブーケを模した押し花が眩しい。
毬江の結婚式でもらったブーケを押し花にしたものだ。
ー次は咲。ー
そう言って笑った親友は、今や上司の妻だ。
ブーケが枯れてしまうまでに結婚式場を決めろ何て無茶を言うから、押し花にしたら怒られた。
でも、きっとそんな無茶を言われなくても押し花にしただろう。
枕元に置かれた本から少しだけはみでている栞には、クリーム色のバラの花の押し花がしてある。
これは手塚夫妻の結婚式で毬江がくれたものだ。
大切な彼女がくれたもの。
大切な彼女が幸せになった証。
それだけでできるだけ長く飾っておくには充分の理由なのだ。
4月
ぼろぼろになったからと制服も新しいものが支給された。
昨年の昇任試験で手に入れたカミツレを襟につける。
今日は早めに出勤するように言われているのだ。
執務室に入るとさすがにまだ誰もいないようだ。
誰もいない執務室が咲は好きだった。
物音に振り返ると今日から自分の班の班長となる男がこっちを見ている。
「おはようございます、手塚二正。」
「おう。」
2つのカミツレをつけるようになった彼は一度机によって資料を取り出すとすぐに部屋から出ていこうとする。
「堂上二正と山本二正は待たなくていいんですか?」
「いいだろ。
笠原はどうせギリギリにしか来ない。」
咲はひとつ頷くと、同じく資料を持って出る。
辞令式と入隊式の会場準備に手塚班は当たっているのだ。
メンバーは班長手塚、副班長堂上(旧姓:笠原)、山本、咲である。
ちなみに咲の代以降、特殊部隊への増員はされていない。
徐々にその役割が必要でなくなってきた事を示している。
「副館長、変わるんですよね。」
東北図書館の館長に就任するため、現在の副館長が変わる。
そのため辞令式も通年よりも大きなものとなるのだ。
「ああ。
近隣図書館の館長の誰かが来るらしい。」
隊員が知っている情報はそこまでだった。
稲嶺引退後、咲は館長の彦江と少しずつ親しくなっていた。
というのも、彦江が稲嶺宅に時折訪れるようになったからだ。
相談、雑談、碁の相手まで、いつの間にやら稲嶺と彦江は旧知の友人のようになっている。
時間というものは、いろんなものを丸く削り取るものらしい。
碁石を触る、痩せた優しい彦江の手を思い出し、彼と馬の合う人物が来てくれるといいな、と思ったりする。
もちろん、昔のように行政に偏ったやり方になるのがいいとは思わない。
あくまで、彦江という一人物を上手く支えてくれる人が来ればいいと、個人的に思うだけだ。
(私も丸くなったな。)
無意識にカミツレに手をやり、咲は淡く微笑んだ。
めぐる季節
