別冊 ー5thー
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美しく盛大な結婚式だった。
柴崎と手塚らしく、堂上夫妻の時よりも落ち着いていた。
もちろん、時折特殊部隊から茶茶は飛んだが、手塚の父の前であることも踏まえて、それらは比較的控えられた。
『私、耳が悪いので声の調節がちゃんとできていなかったらごめんなさい。
柴崎さん、手塚さん、ご結婚おめでとうございます。
ブーケ、すごくうれしいです。
幸せになってください。』
驚いた小牧の一瞬緊張していた顔が、穏やかになる。
新郎新婦が顔を見合わせ優しく微笑みあった。
会場が温かな拍手に包まれ、小牧が毬江に微笑みかける。
(もう、大丈夫だ。)
咲は目を逸らそうとして、今それがふさわしくない行為だと自重する。
嬉しいはずなのに、それを寂しく感じてしまう自分が卑しく思えてしまう。
ようやく彼女が掴もうとしている幸せなのだ。
手放しに喜ぶことができない己は、愚かだと。
拍手の中、小牧はひとつ懐かしい光景を見たが、それをこの場で口に出すことはなかった。
美しい式は、温かな空気の中、幕を閉じた。
「敷かれる構図が目に見えるな。
でもお前たちは幸せになれるよ。」
慧が笑う。
「兄貴も、幸せにしてやれよ。
ブーケは柴崎が悩んでいたが、毬江ちゃんにあげるように空太刀が言ったそうだ。」
答えるのは弟の光。
先日のやり取りを見ていたからこそ、そう言わずにはいられない。
だが慧の方はどこ吹く風だ。
「あの2人の結婚式も楽しみにしているよ。」
誰が、とは言わないがそれが咲のことだということくらい光にもわかる。
どうも自分の1歩も2歩も先を歩いているように見える彼に腹が立つ。
「父さんも母さんも、兄貴のこと心配している。」
その言葉が意外だったのか、慧は目を瞬かせて、それから照れたように笑った。
そんな笑い方を最後に見たのはまだ子どものころだったから、なんだか光の方まで照れてしまって、兄から顔を背けた。
「まだブーケもらってないからな。
・・・もらったら、考えるか。」
優しく目を細めてから、兄は弟に背を向けた。
彼の行く先に一人の女性の姿を確認した弟も、兄に背を向けた。
振り返った先にいた母の物言いたげな瞳に、光は目を瞬かせる。
「光、あちらのお嬢さんは。」
もう一度振り返った先、人ごみの向こうで、慧が咲に何か話しかけている。
穏やかな表情の二人は、歳も立場もずいぶんと離れているはずだが、不思議とどこからどう見てもお似合いだった。
(女の勘、なのだろうか。)
歳をとっても鋭い母に、手塚は表情を崩した。
「俺が言うことじゃないよ。
本人に聞いてみたら?」
まだどこかぎこちない親子にも、また一歩進展も生まれるかもしれないと、淡い期待を込めて。
「咲!」
明るい声とともに駆けてきたのは毬絵だ。
「だめでしょ、小牧さんのところにいないと。
次のお嫁さんなんだか・・・。」
咲の耳に温かい毬江の手が触れ、言葉を切る。
「来年私。
その次が、咲。
だから、おすそ分け。」
親友の手の中には美しいブーケ。
そして彼女の手が触れた場所に触れると、花が差してあるのが分かる。
毬江の向こうで、小牧が微笑んで頷いていた。
少し離れたところには、新郎新婦とそのご両親も。
「ありがとう。」
咲が言うよりも速く、後ろから声がした。
振り返るより早く、誰かが肩を抱いた。
誰かなんて、分かってる。
分かりきっている。
毬絵が嬉しそうに笑った。
新郎の母親が、少し驚いた顔をしてから嬉しそうに微笑んだ。
「咲も、幸せになるのよ。
みんなと一緒に。」
「空太刀さんのこと、見てたでしょ。」
帰り道、ぽつりとこぼされた小牧の言葉に堂上は沈黙を通した。
「えっなになに?」
問いかける郁を無視し、気まずそうに顔を逸らされ、小牧がくすりと笑う。
「どじょーさん。」
懐かしい呼び名に、昔見たランドセルを背負う孤独な子どもを思い出す。
毬江の幸せそうな笑顔を見た彼女は、初めて図書館に来た日のように途方に暮れた顔をするのではないかと思った。
だがどうやらその心配はいらなかったようだ。
たとえ途方に暮れることがあっても、もう大丈夫。
堂上は初めて出会った日からずっと願っていた。
いつでも本は君の傍にいると心強く思ってくれますように。
いつか笑顔で日々を送れますように。
自分にとっての小牧のような、かけがえのない仲間ができますように。
手を差し伸べようとしている自分の存在にも気づいてくれますように。
誰にも代えがたい愛おしい存在に出会えますように。
君を命に代えて守り、この世に生を受けさせてくれた、ご両親のように。
「私、ウエディングブーケはカミツレがいい。
ぴったりだと思うのだけれど、どうかしら。」
小牧の隣で毬江が微笑む。
小牧も穏やかに彼女を見た。
「素敵!
羨ましいくらい。」
郁が嬉しそうに言い、堂上も微笑みを浮かべた。
きっともうすぐハッピーエンド
柴崎と手塚らしく、堂上夫妻の時よりも落ち着いていた。
もちろん、時折特殊部隊から茶茶は飛んだが、手塚の父の前であることも踏まえて、それらは比較的控えられた。
『私、耳が悪いので声の調節がちゃんとできていなかったらごめんなさい。
柴崎さん、手塚さん、ご結婚おめでとうございます。
ブーケ、すごくうれしいです。
幸せになってください。』
驚いた小牧の一瞬緊張していた顔が、穏やかになる。
新郎新婦が顔を見合わせ優しく微笑みあった。
会場が温かな拍手に包まれ、小牧が毬江に微笑みかける。
(もう、大丈夫だ。)
咲は目を逸らそうとして、今それがふさわしくない行為だと自重する。
嬉しいはずなのに、それを寂しく感じてしまう自分が卑しく思えてしまう。
ようやく彼女が掴もうとしている幸せなのだ。
手放しに喜ぶことができない己は、愚かだと。
拍手の中、小牧はひとつ懐かしい光景を見たが、それをこの場で口に出すことはなかった。
美しい式は、温かな空気の中、幕を閉じた。
「敷かれる構図が目に見えるな。
でもお前たちは幸せになれるよ。」
慧が笑う。
「兄貴も、幸せにしてやれよ。
ブーケは柴崎が悩んでいたが、毬江ちゃんにあげるように空太刀が言ったそうだ。」
答えるのは弟の光。
先日のやり取りを見ていたからこそ、そう言わずにはいられない。
だが慧の方はどこ吹く風だ。
「あの2人の結婚式も楽しみにしているよ。」
誰が、とは言わないがそれが咲のことだということくらい光にもわかる。
どうも自分の1歩も2歩も先を歩いているように見える彼に腹が立つ。
「父さんも母さんも、兄貴のこと心配している。」
その言葉が意外だったのか、慧は目を瞬かせて、それから照れたように笑った。
そんな笑い方を最後に見たのはまだ子どものころだったから、なんだか光の方まで照れてしまって、兄から顔を背けた。
「まだブーケもらってないからな。
・・・もらったら、考えるか。」
優しく目を細めてから、兄は弟に背を向けた。
彼の行く先に一人の女性の姿を確認した弟も、兄に背を向けた。
振り返った先にいた母の物言いたげな瞳に、光は目を瞬かせる。
「光、あちらのお嬢さんは。」
もう一度振り返った先、人ごみの向こうで、慧が咲に何か話しかけている。
穏やかな表情の二人は、歳も立場もずいぶんと離れているはずだが、不思議とどこからどう見てもお似合いだった。
(女の勘、なのだろうか。)
歳をとっても鋭い母に、手塚は表情を崩した。
「俺が言うことじゃないよ。
本人に聞いてみたら?」
まだどこかぎこちない親子にも、また一歩進展も生まれるかもしれないと、淡い期待を込めて。
「咲!」
明るい声とともに駆けてきたのは毬絵だ。
「だめでしょ、小牧さんのところにいないと。
次のお嫁さんなんだか・・・。」
咲の耳に温かい毬江の手が触れ、言葉を切る。
「来年私。
その次が、咲。
だから、おすそ分け。」
親友の手の中には美しいブーケ。
そして彼女の手が触れた場所に触れると、花が差してあるのが分かる。
毬江の向こうで、小牧が微笑んで頷いていた。
少し離れたところには、新郎新婦とそのご両親も。
「ありがとう。」
咲が言うよりも速く、後ろから声がした。
振り返るより早く、誰かが肩を抱いた。
誰かなんて、分かってる。
分かりきっている。
毬絵が嬉しそうに笑った。
新郎の母親が、少し驚いた顔をしてから嬉しそうに微笑んだ。
「咲も、幸せになるのよ。
みんなと一緒に。」
「空太刀さんのこと、見てたでしょ。」
帰り道、ぽつりとこぼされた小牧の言葉に堂上は沈黙を通した。
「えっなになに?」
問いかける郁を無視し、気まずそうに顔を逸らされ、小牧がくすりと笑う。
「どじょーさん。」
懐かしい呼び名に、昔見たランドセルを背負う孤独な子どもを思い出す。
毬江の幸せそうな笑顔を見た彼女は、初めて図書館に来た日のように途方に暮れた顔をするのではないかと思った。
だがどうやらその心配はいらなかったようだ。
たとえ途方に暮れることがあっても、もう大丈夫。
堂上は初めて出会った日からずっと願っていた。
いつでも本は君の傍にいると心強く思ってくれますように。
いつか笑顔で日々を送れますように。
自分にとっての小牧のような、かけがえのない仲間ができますように。
手を差し伸べようとしている自分の存在にも気づいてくれますように。
誰にも代えがたい愛おしい存在に出会えますように。
君を命に代えて守り、この世に生を受けさせてくれた、ご両親のように。
「私、ウエディングブーケはカミツレがいい。
ぴったりだと思うのだけれど、どうかしら。」
小牧の隣で毬江が微笑む。
小牧も穏やかに彼女を見た。
「素敵!
羨ましいくらい。」
郁が嬉しそうに言い、堂上も微笑みを浮かべた。
きっともうすぐハッピーエンド