別冊 ー5thー
名前変換
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作戦を立てたのは自分だ。
それを選んだのも自分だ。
―嫌です、柴崎三正。
そんな危ない作戦なんて!―
必死にそう言って逆らったチビちゃん。
珍しくまくしたてて、何度も噛みついて。
でもあの子が協力してくれると言うから、根本的なところから撃とうと思った。
だから、この作戦にした。
あの子なら、託せると思った。
あいつがちゃんと助けに来てくれるように、橋渡しをしてくれると思った。
それでも、それでも怖かった。
名前を呼ばれるまで。
口をふさぐ手にかみつく。
血の味が気持ち悪いが、構ってられない。
「手塚ぁ――――!!」
そこにいるのだ。
そして、ガラスが割れた。
飛び込んで男を取り押さえる背中に、体が震えた。
続いてもう一人飛び込んできた。
「すぐに警察が来ます!!
夜分に申し訳ありません!」
そう叫ぶとカーテンを引く。
その声で誰かはすぐに分かった。
「遅くなってすみません。」
柴崎の耳元で、柔らかい声が響いた。
縄が切られ、体が温かい何かでくるまれる。
手元を見れば分かる。
いつも咲が羽織っていた、お気に入りのカーディガンだ。
彼女の体温の温もりが、不思議と懐かしかった。
くるんだ中で、ブラウスのボタンを止めてくれる。
そして、ぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫、もう大丈夫です。」
小さな顔が、無理にくしゃっと笑ったから、柴崎は顔をそむけた。
思わず泣いてしまいそうになったから。
「後は私が。」
咲はすぐに立って、手塚の方に行く。
彼は男を冷蔵庫の取っ手に手錠で固定しているところだった。
「警察にも連絡します。
先に帰ってください。」
「・・・悪い。」
一瞬の間は、流石にこんなことをしでかすようなストーカーと2人で部屋に置いておくことについてだろう。
「それはだめ!」
柴崎も咄嗟に反論する。
「大丈夫ですから。」
携帯を見せて、すぐに何かあれば連絡すると無言で伝えた。
「ネットの方も、抜いときます。」
「何言ってんの!
そいつがどんな男か、分かったでしょ!?」
咲は小さく頷いた。
でも、話しを聞くわけではなく、手塚を見上げ、お願いします、と言った。
手塚は頷くと、柴崎を抱き上げる。
「手塚っ!
あんた咲が!」
「悪い。」
さっぱりとした言葉が、手塚から出た。
「約束していただいたのは私です。」
明るい咲の声が、背中越しに聞こえた。
「だから、ちゃんと果たしてくださらないと、慧さんに言いつけますよ?」
手塚は振り返るとひとつだけうなずいて、そのまま部屋から出て行った。
咲はまず、パソコンのネットケーブルを引き抜いた。
続いて平賀にダイヤルを回す。
「ええ、たどってきてもらえますか?
公園のそばの、はい。
野次馬もいるし、分かると思います。」
「・・・お前、水島の同室だろ。」
男がぼそりと話した。
「いいえ。」
咲は無表情で答えた。
「私、一人部屋なんです。」
パソコンの灯りが、咲の顔を映した。
腕や足のところどころから血が流れているのは、窓ガラスで切ったからだろう。
パソコン画面のピンク色のけばけばしい光を受ける咲の顔に、表情は無い。
彼女に助けは来ないのだろう。
さっきの手塚のような、王子様はいない。
独力で戦い、独力で勝ち残る女だ。
「カメラ、とってもらえないかな。」
「・・・何のために。」
「君を撮りたい。」
咲は睨みつけるだけでそれに応えなかった。
「今の君、被写体として、最高なんだだよ。」
ただ一人の兵士