別冊 ー5thー
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
咲は門限の時間帯に飲み物を買いに行くふりをして柴崎の部屋の前を通る。
これはもう日課になっていた。
ノックをするが返事がない。
おかしいと思って電話をかけても、出ない。
すぐに郁に電話した。
『そんなっ!
10時半には送り返したよ!』
門限は11時。
すでに30分の空白が生まれた。
「堂上二正に連絡お願いします。
だれか、車両倉庫に回してください。
こちらは車手配と警察に連絡します!」
『了解!』
咲はすぐに水島に電話をかけた。
「ごめんなさい、ちょっと班の方から連絡があって。」
『どうしたの?』
「柴崎三正が行方不明で。
すぐに手塚三正に車出して追いかけてもらうつもりなんですが。」
『大変!
私も心配だから行くよ!』
「でも!」
『一人でも多い方がいいって。』
「ありがとうございます!」
咲はぐっと手を握る。
「では、車とってくる時間もあるので、10分後に女子寮の入口で落ちあいましょう。」
『わかったわ!』
明るい水島の声を最後に、咲は電話を切り、平賀に連絡を取る。
「はい、動きました。
例の子、女子寮前に10分後に下ろしますから。」
ここまですべて手筈通りだ。
そのまま後方支援へ走る。
貸出の署名も済ませて車両倉庫の前で待っていると、手塚が走ってきた。
咲にとっては堂上や小牧の方がよかったが、どうしようもないだろう。
(柴崎三正のことだから。)
「こっちです。」
エンジンまでかけてスタンバイOKだ。
手塚が運転席に飛び乗り、咲に端末と布テープを渡す。
シートベルトをつけたら即発進だ。
ちょうどその時、通用口からは言ってくるパトカーとすれ違った。
咲が軽く会釈すると、平賀が手を挙げて応じた。
「・・・誰の策だ。」
手塚の声は不機嫌も絶頂だ。
だから堂上か小牧が良かったのだ。
写真を見つけて夜中に呼びだした時の柴崎よりも、もしかしたら不機嫌かもしれない。
「何のことですか。」
「とぼけんな!」
激しい怒号とともに、ハンドルを殴るが、咲は反応しない。
この人に自分自身を殴られるくらいの覚悟はできていた。
「歩行者が」
「黙れ!
誰の策かと聞いているんだ!」
運転はきわめて荒い。
着信があり、咲は手塚を無視して電話に出た。
「はい、空太刀。
やはりフェイクでしたか。
ええ、もちろん発信器の方に向かっています。
運転は荒いから死にそうですけど。
・・・分かりました。」
咲は携帯をスピーカーモードに切り替える。
『手塚、いいか。』
聞こえるのは堂上の声だ。
『もうひとつあった住所はフェイクだ。
そっちしかない、くれぐれも事故るなよ!』
「ッ!!
分かってます!」
思わず怒鳴る。
『それから、これは柴崎の策だか』
言葉が途切れた。
通話を終了したのだ。
咲が。
それでも、続いたであろう言葉は予想できた。
(柴崎の策だから、空太刀にあたるな。)
「人いないですから、無視していきましょう。」
赤信号を顎でしゃくる。
「・・・わる」
「悪くない。
急いでください、ミニバンに乗った王子様。」
真っ直ぐ前を見た顔が、車道に据えられた街頭のせいでオレンジ色に見える。
それでも分かる、顔色の悪さ。
目の下の隈も濃い。
水島を引きうけてくれたと聞いた。
こう見えて柴崎にずいぶん懐いている彼女のことだ。
何としてでも解決したかったに違いない。
それこそ、寝ずに様子を見張るくらいはやっていただろう。
携帯を握る細い手は白くなっていた。
「大好きな柴崎三正、助けなきゃ。」
自分に言い聞かせるように呟かれた声に、手塚は、ああ、と答えた。
貴女の王子様