別冊 ー5thー
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「そういえば、ほら例の、解決したの?」
眠る前、ふと思い出したように水島が咲に問いかけた。
「例の・・・ええっと・・・」
咲が考える振りをする。
まるで彼女の言う“例の”にあまり興味がないかのように。
「ほら、柴崎三正の件。」
「ああ、あれですね。
いいえ、私が利く範囲ではまだだそうです。
堂上三正がおっしゃっていましたが、変なところからの電話がずっと鳴りっぱなしで、眠れないらしいですよ。
同室じゃなくてよかったですね。」
咲の言葉に、水島は一瞬見せた満足そうな顔を引っ込め、不安げな顔をして見せた。
「そう。
でも心配ね。
大丈夫かしら。」
「水島士長はお優しいんですね。」
咲が笑ってみせると、水島は満足そうに笑った。
「だって短い間だけでも同室だったんだもの。」
廊下でばったりと進藤に会い、咲は上司である彼に向かって会釈をした。
周りに人気はなく、進藤はその下げられた頭をくしゃりと撫でた。
「同室できたって?」
どこからの噂だろうか。
特殊部隊に属しているいい年の男のくせして、この男は思いの外気配りができる。
「はい。
良くしてくださいます。」
「お前が誰かと同じ部屋なんて考えられねぇが。
慣れろ。」
だからだろう。
必要以上のことは言わない。
目の下にできた隈にも気がつかない振りをしてくれる。
でもぽん、と軽く頬を叩くのは、彼なりに心配していることを表現しているのだろう。
「“やりたいこと”はできてんのか。」
それは自分が昇進を断った時に出した言葉だ。
覚えていてくれたことがなんだか嬉しくて、咲はくしゃりと笑った。
充分に歓喜を終え、咲は窓を閉めた。
いつも以上に綺麗になった部屋に、咲は独りで満足げに頷く。
水島は友達に会いに行くから、今日は夜まで帰ってこない。
それならばと彼女にも許可を取り、今日は大掃除をしたのだ。
部屋のレイアウトもちょっと変えてみたり。
だから彼女は何も気がつかないはずだ。
咲は水島のパソコンをつける。
ロックは手塚の誕生日だった。
これを調べるのに時間がかかってしまったのだ。
最終的に、室内に監視カメラを設置した。
見つからないかとひやひやしたものだ。
データを確認し、必要な物はUSBメモリに抜き取る。
作業はものの10分で終わった。
前の休みには柴崎の行きつけのランジェリーショップでも裏を取った。
咲が集められる範囲の証拠はこれで集まったことになる。
問題はもう一人の犯人の方だった。
平賀に任せてあるのだが、なかなか捕まえられないらしい。
咲も身支度を始めた。
電話が入り、咲はそれに応じる。
「はい、空太刀です。
お疲れ様です。
お忙しいところすみません。
・・・ええ、いつもの喫茶店ですね。
分かりました。
ではあと10分もしたら出ますので。」
電話を切ってから着信履歴の一番上にある、“平賀”の文字を消した。
そして柴崎に選んでもらった洋服に着替える。
お出かけ用の、お洒落着だ。
もちろん、化粧もばっちりで、靴もスニーカーではなくパンプスである。
どれもこれも、やはり柴崎仕込みだ。
裏門から出ようとすると、丁度見回りに来ていた手塚に会った。
咲は立ち止まって頭を下げる。
誰かに見られるのも想定内だ。
「出かけるのか。」
「はい。」
少し照れたように笑って見せれば、相手は上手く勘違いしてくれたらしい。
事情を知った上深読みしてくれる手塚で助かった。
「・・・楽しんで来い。」
そう言ってくれる兄貴分に、咲は頷く。
そしてふと思い出したように真面目な顔をした。
「手塚三正。
・・・ひとつお願いが。」
兄のことで何か頼むつもりだろうか、と手塚も顔を引き締める。
「誰よりも柴崎三正を優先すると、約束してください。」
出てきた言葉は予想外のもの。
固まっている手塚に、咲は背を向けて歩き出す。
あと一歩