別冊 ー5thー
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「ごめんね、もし巻き込まれちゃうといけないし。」
柴崎は申し訳ない様子を見せて水島にそう言った。
「いえいえ、何もできなくて申し訳ありませんでした。」
荷物を、水島と柴崎と咲で運ぶ。
ここのところ良く通っていた咲の部屋は、柴崎にはその荷物を入れただけで一気に暗く重く狭い部屋に見えた。
そしてその荷物が無くなった自分の部屋は、広く明るく見え、ストーカー被害が亡くなったわけではないけれど、重荷が下りた気さえした。
だが、問題はこれからだ。
(チビちゃん、あんたも気をつけなさいよ。)
しばらくは咲の部屋には行けなくなる。
そして咲も、柴崎の部屋には訪れなくなる。
自分を大切にしてくれる人とともに、ひとつの賭けをすることに決めたから。
こんな風に誰かを頼れる日が自分にも来るなんて、思ってもみなかった。
「こんな感じ。」
図を指差す水島に、咲は淡く笑顔を見せた。
「ありがとうございます。
そう考えればよかったんですね。」
はじめのたどたどしさもなくなり、二人は打ち解けてきたようだ。
水島は上に立つのが好きなタイプなのか、解らないことを聞く事で親しくなることができた。
咲は買ってきたチョコレート菓子を開け、水島にも勧める。
「私も士長目指して今から頑張ろうと思ってるんです。
水島さんみたいに、こつこつやったら、私もちゃんとなれるかなって。
また勉強みてくださいませんか?」
「うん、いいよ。」
水島は嬉しそうに笑う。
「良かった。
柴崎三正に聞いたこともあるんですが、あまり教えてもらえなくて。」
そう言って困ったような顔をすれば、水島は大きく頷く。
「あの人、ちょっと当たりきついでしょう。
華やかなタイプだし・・・。
私も同室のときちょっと大変だったから、貴方の部屋に替わってラッキーだったの。
何でも聞いてね。」
「ありがとうございます。
よろしくお願いします。」
満足げに笑う水島に、咲もほっと笑顔を見せる。
「そう言えば、柴崎三正、なんだか大変みたいね。」
「そうなんですか?
私噂とかには疎くて。」
「ええ。
ネットで情報ばらまかれたりして、変な誘いの電話とか多いみたい。」
どこか自慢げな様子に、咲は大げさに驚いて見せる。
「そうなんですか!
いたずらでしょうか。」
「そうかもね。
でもあの人なら、もしかしたらそう言うところに登録していたりするのかも。
ほら、そういうの、好きそうじゃない?」
頬杖をついてくるくるとペンを回しながら、水島はどこか楽しげに言う。
「いろいろ恨みも買っているかもしれませんよ。」
「あ、確かにー!」
女の陰口は恐いものだ、と咲は笑顔を張り付けて思う。
「ちょっときれいでよくできるからと思って、自分のこと好きでもない男の人にまとわりついたりするもの、恨まれて当然よね。」
咲はまた、驚いた顔をして見せた。
「えっそんなこともしてるんですか?」
「そうよ、同期だとほら、いろいろわかっちゃうの。」
意味深な言葉に、咲は身を乗り出す。
「いろいろって、そんなにいろいろあるんですか?」
「まぁね、たとえば・・・」
今日も咲のポケットの中で怪しく光るボイスレコーダは、水島の目に触れることはない。
きっと彼女がそれを知るときは、全てが終わる時だろう。
忠犬ですから