別冊 ー5thー
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「昇任試験、ですか?」
予想外の言葉に、咲は目を瞬かせた。
「ああ。
お前、今回は何かと功績があったからな。
ペーパーをある程度とれば通るだろう。
ま、つまり合格だな。」
進藤が自信ありの笑顔を浮かべる。
咲のペーパー試験の出来に不安はないのだろう。
21歳で一士であることが異例であるのに、22歳で士長になる。
それは同級生よりも咲の方が階級が上になると言うことだ。
入隊すぐにおこなわれる試験は、新入隊士には試験資格はない。
本来であれば咲の歳でも受験できないはずなのだが、部長推薦がある場合は別、と決められれいる。
今までそれを満たしたものはいなかったが。
「隊長からの御進言だ。
茨木に続いて、手塚慧の護衛での功績があるんだ。
本当はひとつ飛ばしで三正にしてもいいくらいだとな。
推薦状は隊長から部長に頼んでくれるらしいから、断られることはまずない。
これ、書類。」
咲の前に書類が並べられる。
それをじっと見つめてから、咲は目を閉じて一つ溜息をついた。
「・・・申し訳ありませんが、受けられません。」
「そうか、こっちは書いたら俺のハンコ・・・・今なんつった?」
座ったままの進藤は、机を挟んだ先に立つ咲を見上げた。
執務室には二人と、緒方が残っていただけだったが、彼も思わず書類を繰る手を止めて耳をそばだてた。
「有難いお話ですが、私では無理です。」
「何馬鹿言ってんだよ、言ったろ?
隊長が」
「無理。」
きっぱりと言い切る姿に、進藤はファイルを閉じ、改めて手を組むとじっと咲を見上げる。
「理由は?」
「ものには順序があります。
それに・・・私はまだ一士としてやりたいことがあります。」
「・・・そりゃなんだ?」
咲はじっと進藤を見つめるばかりでその質問には答えない。
進藤は溜息をついた。
「伯父さんの方から、私ではまだ無理だと言っておいてください。
同い年の子と仲良くするためにも同じ階級に居させてやるのが親心だとか言って。」
「んな馬鹿なこと言えるか。」
「兎に角、私では無理。」
「・・・辞退ではないとでも言いたいのか。」
鋭い視線が咲を疑うように視た。
「よろしくお願いします。」
進藤はまたひとつ溜息をついて、そっぽを向いて頭を掻く。
「頑固なところは俺譲り、か。」
鍵を開ける。
いつもは暗い部屋なのに、ドアの隙間から光が漏れる。
「無理―!頭破裂する!」
「うるさいっあんた今逃したらカミツレ手に入らないわよ!」
独身寮を出た郁が、昇進試験の勉強のため、咲の部屋にお邪魔しているのだ。
曰く、家では勉強ができないらしい。
堂上夫に教えてもらうのは嫌なんだとか。
家でも職場でも上司状態は、確かに精神衛生上も夫婦関係嬢もよくなさそうだ。
要点をまとめたノートは今回ももちろんもらっている様子だが。
「栄養ドリンク買って来ました。
あと頼まれていた紅茶と、お菓子も。」
「サンキュ!
ほら、咲が部屋貸してその上買いだしまでしてくれてんのよ。
もう一息!」
「もう無理だって!」
相変わらずのやり取りに、咲は小さく笑った。
郁と柴崎、そして手塚は今年三正への昇任試験を受けることになった。
この試験は士長への昇任試験とは違い、士長までを一定期間務めた上、部長推薦がないと受験できない。
柴崎と手塚は日々の素行が良いため推薦を受けられるのは当然だが、郁の場合は茨木や当麻の件をアピールできる今回だからこそ推薦が受けられたともいえる。
一言でいえば、後がなく必死なのだ。
「お菓子開けますから、食べながらしましょう。」
「あ、それ新発売の。」
咲の手元を見て嬉しそうな顔をする柴崎だが、疲れているのは見て取れる。
頭の良い柴崎とはいえ、一応試験勉強もしたい。
だが新しい同室の水島とはどうもうまくいっておらず、部屋では勉強しづらいのだとか。
水島は柴崎の同期ではあるが、どうやら部長推薦を受けることができず、受験資格がないことを相当気にしているらしい。
「ありがとう咲ー!
咲が試験のときには精一杯サポートするから!」
拝む勢いの郁に柴崎はくすりと笑う。
「たぶんあんたのサポートはいらないわね。」
「お気になさらず。
私はまだ受験できないですが、早くカミツレ、見せてくださいね。」
咲はお菓子を置いてお湯を取りに行く。
「でも咲が士長昇任試験受けないのは意外だったな。」
背中から郁の声が追いかけてくる。
お盆にカップを並べ、ティーパックを入れながら咲は頭を振った。
「22歳以上でないと士長にはなれません。
そうでない特別措置をするには部長推薦がいるんです。」
「私でも部長推薦とれたよ?
咲だって、手塚慧を身を呈して守ったでしょ?
茨木だって、隊長の命救ったと言っても過言じゃないし・・・。」
「自分の身体で防いでいるようでは、実力があるとは言えませんから。
それに、隊長はハチの巣になりました。
隊務復帰までどれだけかかったか。」
紅茶を二人の前に並べ、咲も座る。
「それもそうだけど・・・。」
「だから、早く見せてくださいね、カミツレ。」
淡い笑顔に押され、郁は頷いた。
ほしいもの