別冊 ー5thー
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咲が目を瞬かせる。
進藤はトム笑いを始めた。
「堂上教官、ねぇ。」
郁が新しい防衛隊員の指導を任され、今年の春、再びあの呼び名が戻ってきた。
郁はどこかこそばゆそうな顔をしている。
「にしても、今年の新入隊員は空太刀と同い年か。」
手塚がぽつりと呟いた。
「咲みたいな出来のいい子はそういないだろうけどねぇ。
経験も違うし。」
郁の言葉に、咲は首を振った。
「そんなことは。」
波乱はその後だった。
「堂上教官!
ご一緒してもいいですか?」
食堂の入口で、郁のモデルのような背中がぎくりと動いた。
その後ろにはベビーフェイスの可愛い女の子。
満面の笑みだ。
(どういう構図・・・?)
振り返った郁が、咲を見つける。
そして。
「ごめんね、安達!
ちょっと今日は咲と約束してるの。
またね!」
咲の腕を掴んで郁はテーブルを探す。
当然咲は流されるままで。
(・・・あ。)
安達の鋭い視線が、咲を捕えていた。
慌てて会釈をするが、彼女は踵を返して行ってしまった。
(嫌な、予感・・・。)
今年の新入隊員もなかなか見ものだ。
何より、安達と言う隊員は郁にずいぶん憧れがあるらしい。
流石に咲とは同い年ということで、憧れ云々と言うことはないが、どこかライバル視されているのを感じないわけではない。
その原因は、実は複数あって。
「山本士長!
お疲れ様です!」
安達の明るい声が咲の隣を呼んだ。
「まったく。」
そう言いながらも嬉しそうな顔をする山本。
無意識なのだろう。
でも咲には、彼の笑顔の意味することは理解できた。
それだけ共にいたし、その笑顔をもらってきた。
だからこそ。
(寂しいと思うなんて・・・)
きゅっと拳を握る。
この選択をしたのは自分だった。
この笑顔はもう、自分のものにはしない。
それが彼のためであり、自分のため。
(決めたのだ、もう。)
「山本士長、安達一士のこと、大切にしてあげて。」
見開いた目に、咲は笑いかけた。
役職を読んだのはワザとだ。
距離をあけるために。
「ごめんね、ずっと縛って。
お荷物で。
でも、もう大丈夫だから。
私ももう、独りででも戦える。」
山本の顔から表情が消える。
くるりと大きな背中が咲に向けられた。
この背中と自分の小さな背中を合わせて、ずっと戦ってきたのだと思うと、胸が痛んだ。
きっとこれから、この背中は他の人と合わされ、他の人を守るために盾となる。
「・・・ふざけんな。」
こんなに怒った声を聞いたのも初めてだった。
でも、動じたりはしない。
その背中に向かって、咲は精一杯笑って見せる。
彼がいつもくれた、眩しい笑顔のように。
「今までありがとう。」
聞こえただろうに、彼は何も反応しない。
(これでいいんだ。)
相手もきっと気づき始めている。
だから咲は、彼に背中を向けた。
動き始めた時は、止められない