別冊 ー5thー
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「綺麗だったね、堂上郁さん。」
寮への帰り道、いつも通り山本と咲は並んで歩いていた。
咲はくすりと笑う。
酒も入り、首元まで赤い。
どこか色っぽさと、幼さが感じられ、
いつもの雰囲気とのギャップに、山本はふいっと視線をそらした。
「ああ。
背が高いとマーメイドタイプが似合うんだな。」
「うん。」
「お前も、きっと似合うよ。
笠原士長ほどじゃないけど、背は高いし。」
「そう・・・かな。」
「ああ。
見てみてぇな。」
「やだよ。
結婚式何て。」
咲の祖母も昨年亡くなり、彼女の身うちはまたさみしくなった。
「何言ってんだよ。
進藤一正待ってるぜ、きっと。
ぱぁっと喜ばせてやらねぇといけないんじゃね?」
いつの間にかハイヒールを履きなれない咲の歩調に合わせたからか、
他の特殊隊員とはずいぶん離れてしまった。
「でもどうかな。」
彼女の眼は、今は傍にはいてくれない、彼を見ていた。
ー今は預けといてやる。ー
そう言って笑った、完璧な男を。
自慢ではないが、山本にもよくできるほうだという自覚はある。
(だがあいつと比較してはどうだろう。
・・・俺が勝っているところなんて。)
気づけば足が止まっていた。
不思議そうに咲が振り返る。
暗い道の中、電灯に照らされる淡い影。
いつもの隊服とはまるで違う、ひらひらとした生地が夜風に揺れて、白い太ももをちらちらと晒す。
「俺じゃダメなのか?」
咲が息を飲むのがわかった。
それでも止められなかった。
こんなとことも、あの男とは違うのだろうと思った。
一歩咲に近づく。
「俺は、お前のそばにいる。
離れない。
さみしい思いも、危険な目にも合わせない。」
カツン
ヒールの音が鳴ったのが聞こえた。
俺の、下で。
何度も彼女を抱きしめたことはある。
でも、こんな意味で抱きしめたことはない。
「私は・・・独りでいいの。」
「それは・・・」
山本は息を吸った。
「手塚慧とも一緒にはならないっていうことか?」
咲ははっとしたように山本を見上げた。
間近で電灯を受けて光る瞳。
潤んだそれに、山本は釘づけになる。
「あの人の考えていることなんて・・・分からないよ。」
彼女は分かっていなくとも、慧が彼女を自分の者にしてしまうつもりなのは、山本は良くわかっていた。
そして、そうなってしまってもいいと彼女が無意識に思っていることも。
だから、チャンスは今しかない。
「俺はおまえと一緒にいたい。
ずっと。」
今まで考えたこともなかったのか、彼女の黒い瞳が驚いたように開かれた。
「・・・なぁ。」
酔ってるな、と思いながら、もう一度抱きしめる。
「咲が好きだ。
好きなんだ。」
返事はなかった。
だからこそ、ダメだと分かった。
これ以上、彼女を苦しめるわけにはいかないと思った。
でも、そんな彼女を慰められるほど、山本も大人ではなかった。
できることなら、ずっとずっとこうしていたいと思った。
腕の中に囲って、閉じ込めて、あの男の目に触れないようにしたいと。
でも山本は腕を解いた。
固くなっている咲から目をそらす。
「・・・ごめん、忘れてくれ。」
ただそう言って、背中を向けて足早に歩き出す。
こんな夜に女の子をほっぽり出すなんて、どうかしているなんて、考える余裕もなかった。
「・・・忘れないよ、ずっと覚えてる。」
背中に聞こえた声に、足が思わず止まる。
「・・・私も山本が好きだよ。
その・・・山本とは違う意味だけど。
かけがえのない人なんだ。」
山本は泣きそうな顔でくしゃりと笑ってから、また一歩踏み出した。
お前のすきと、俺の好き