別冊 ー5thー
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「咲!こっちは?」
「ちょっとかわいすぎない?」
「めったにおしゃれ着なんて着ないんだから、かわいいくらいでいいの。
それに絶対似合うって。」
そうと決まれば試着ね、と咲の背中を押す毬江。
「いよいよ笠原さんが堂上さんになるのね。」
小牧さんに早くなりたいな、なんて思うけれど、小牧を待たせているのは自分だったことを思い出して、毬江はくすりと笑った。
毎日いろんなことがあって、郁と堂上も何度もトラブルを起こしたり巻き込まれたり野毎日だけれど、ようやく結婚式の日取りも決まった。
式には毬江も咲も呼ばれており、今日は咲がパティーで着るためのワンピースを買いに来たのだ。
ちなみに毬江のは小牧と購入済みである。
「着替えた?」
「う・・・うん。」
シャッと音を立ててカーテンが開く。
「かわいいっ。」
レースが効いた、明るめのライトブルーのワンピースだ。
「髪もアップにすれば絶対かわいい!」
自分に無頓着な咲におしゃれな格好をさせることは、
今や毬江の楽しみの一つになりつつある。
(元はいいんだから、後はどう見せるかよっ)
意気込む毬江に、今日も始まった、とため息の咲。
毬江は足の銃傷に向いてしまった目を引きはがした。
当日はタイツでごまかすことになっている。
(元はいいのに・・・。)
目の前の親友は、一見女子大生と何ら変わらない。
咲だって、毬江の隣で女子大生になっていた未来もあったかもしれないのだ。
なのに、足を銃で撃たれ、腹をナイフで刺され、傷だらけになって本を守っている。
先月も何やら催涙弾で皮膚がただれて大変だったと聞いた。
(立派な仕事だと、思う。)
己の身を犠牲にしてまでも、図書の自由のために働くなんて、自分にはできないだろう。
甘いものも食べたいし、楽しい本も読みたいし、痛い思いなんてしたくないし、辛い訓練も嫌だし。
(ましてや咲のように人を撃つなんて。)
テストは嫌だけれど、女子大生の身分を存分に堪能しているし、ずっとこのままでいたいほど楽しい。
(もし私みたいに女子大生になって、手塚さんと付き合えていたら、苦しい思いもしなくてよかったんだろうな。)
小牧や堂上には話し、咎められることもなかったと聞いたが、郁にはまだ話していないらしい。
詳しいことは教えられていないけれど、少しずつ手塚との関係が受け入れられつつあることは、毬絵にとっても嬉しいことだった。
着替え終わった咲が試着室から出てくる。
(咲はきっともう、普通の女の子には戻れない。)
違う世界を生きているような感覚が、会うたびに強くなる。
それがひどく寂しい。
だから。
「今の第一候補ね。
次のお店に行こう!」
「ま、まだ行くの・・・?」
「当たり前でしょ。
次のお店の隣においしいケーキ屋さんがあるから、ワンピース見たら行こうね。」
困ったように咲が笑う。
(手塚さんに送りつけて、あっと言わせるようなかわいい女の子に仕上げるんだから。)
大切なひととき