別冊 ー5thー
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チャイムを鳴らし、柴崎と郁は咲の部屋の前でしばらく待った。
のぞき穴からのぞく音がして、
いつもしない音だから不思議に思う。
しかしドアが開いてその理由が分かった。
「山・・・・」
二人が部屋に入り、再びドアに鍵をかけてから、
最後まで郁に名前を呼ばせなかった柴崎の働きに山本は頭を下げる。
「ここ、どこだかわかってるの?」
郁の口を押さえたまま、柴崎が問う。
もごもご言っている郁に、大きな声を出さないように念を押してから手を放した。
郁は約束通り静かに黙っている。
「俺達、窓からよく互いの部屋に出入りしてるんっすよ。」
いつも通りの笑顔と返された言葉に、
さすがの郁の顔も引きつり、柴崎は額に手を当てて頭を振った。
「あんたたちなら身軽だし見つからないかもしれないけど・・・。
そんなために鍛えてるんじゃないでしょう?まったく。」
で、咲は?
山本は体を動かしてベットが見えるようにした。
そこにはつらそうに息をして寝込んでいる咲。
「どうしたの?
熱?」
「疲れが出てしまったようなんですよ。
医務室に一応顔出して、出された薬も飲みました。」
「ん・・・山本・・・?」
目が覚めたようで、声を出すも、
ずいぶんと弱弱しい。
山本はすぐにベットに近寄って、しゃがんだ。
「柴崎士長と笠原士長。」
「大丈夫?
あんた無理するからよ、まったく。」
「顔が催涙弾のせいでかぶれるとやだから、
軟膏とか持ってきたんだけど・・・」
「・・・いい。」
よほど辛いのか、それだけ言って顔をそむけた。
だが見ているだけでも痛々しく腫れ始めている。
郁や堂上以上に煙に晒されていたのだ。
「熱も持っているから、薬付けたら気持ちいよ。」
郁の言葉に咲は薄眼を開けた。
いつになく涙のたまった目は、特殊部隊だとはとても思えない。
「・・・じゃあ・・・。」
兄ばかりに囲まれて育った郁にとっては、咲はかわいい妹分だ。
早速軟膏を取り出して塗り始める。
柴崎はそれを確認してから、山本をちょいちょい、と玄関に呼び出した。
「山本、あんた今夜もしかしてここに泊るつもり?」
「はい。」
何のためらいもない、曇りもない表情に、柴崎は眉をひそめる。
「あんたも一応男でしょ。
我慢できるの?」
柴崎がこれを聞いたのには理由がある。
さっきの咲の郁への返事を聞いた時の山本の表情が、一瞬だけだったが変わっていた。
これはある意味、柴崎だからこそ気づけたのかもしれない。
山本は迷ったような表情を見せた。
「・・・傍に、いたいんです。」
「それはあんたの気持ち。」
柴崎の言葉に肯定も否定もしないことが返事だ。
彼とて、こんな形でもちろん手は出したくないが、
本当のところはわからない、というところだろう。
「後は郁と私に任せな。」
山本は咲と、咲に軟膏を塗る郁に目を向けた。
細められた目は、普段の彼からは想像もつかない。
「よろしくお願いします。」
顔を柴崎に向け、軽く会釈をすると、スニーカーを拾い上げた。
窓に向かう山本に気付いた郁が手を止め、彼の方を向く。
「笠原士長、よろしくお願いします。」
「まっかせなさい!」
小声でそう交わして、郁は親指を立てた。
外をうかがい、窓を開けて足をかける。
「山本。」
小さな声が耳に届き、思わず動きを止めた。
「ありがと。」
山本は窓の外を向いたまま、一瞬泣きそうに、でも笑うようにくしゃっと顔をゆがめた。
それから少しだけ振り返って、ちらりと咲を見る。
「早く元気になれよな。」
そして返事を聞くことなく、窓枠を蹴った。
柴崎が窓辺によると、降りるために使ったロープが器用に外されて下に落ちていくのが見えた。
軽く会釈をして、ロープをつかんで駆けていく山本の顔は、いつも通りの笑顔だった。
柴崎は静かに窓を閉める。
(本当に大事にしたい人、
大事にしてくれる人、か。)
心の中で小さくつぶやいて。
小さな願い
のぞき穴からのぞく音がして、
いつもしない音だから不思議に思う。
しかしドアが開いてその理由が分かった。
「山・・・・」
二人が部屋に入り、再びドアに鍵をかけてから、
最後まで郁に名前を呼ばせなかった柴崎の働きに山本は頭を下げる。
「ここ、どこだかわかってるの?」
郁の口を押さえたまま、柴崎が問う。
もごもご言っている郁に、大きな声を出さないように念を押してから手を放した。
郁は約束通り静かに黙っている。
「俺達、窓からよく互いの部屋に出入りしてるんっすよ。」
いつも通りの笑顔と返された言葉に、
さすがの郁の顔も引きつり、柴崎は額に手を当てて頭を振った。
「あんたたちなら身軽だし見つからないかもしれないけど・・・。
そんなために鍛えてるんじゃないでしょう?まったく。」
で、咲は?
山本は体を動かしてベットが見えるようにした。
そこにはつらそうに息をして寝込んでいる咲。
「どうしたの?
熱?」
「疲れが出てしまったようなんですよ。
医務室に一応顔出して、出された薬も飲みました。」
「ん・・・山本・・・?」
目が覚めたようで、声を出すも、
ずいぶんと弱弱しい。
山本はすぐにベットに近寄って、しゃがんだ。
「柴崎士長と笠原士長。」
「大丈夫?
あんた無理するからよ、まったく。」
「顔が催涙弾のせいでかぶれるとやだから、
軟膏とか持ってきたんだけど・・・」
「・・・いい。」
よほど辛いのか、それだけ言って顔をそむけた。
だが見ているだけでも痛々しく腫れ始めている。
郁や堂上以上に煙に晒されていたのだ。
「熱も持っているから、薬付けたら気持ちいよ。」
郁の言葉に咲は薄眼を開けた。
いつになく涙のたまった目は、特殊部隊だとはとても思えない。
「・・・じゃあ・・・。」
兄ばかりに囲まれて育った郁にとっては、咲はかわいい妹分だ。
早速軟膏を取り出して塗り始める。
柴崎はそれを確認してから、山本をちょいちょい、と玄関に呼び出した。
「山本、あんた今夜もしかしてここに泊るつもり?」
「はい。」
何のためらいもない、曇りもない表情に、柴崎は眉をひそめる。
「あんたも一応男でしょ。
我慢できるの?」
柴崎がこれを聞いたのには理由がある。
さっきの咲の郁への返事を聞いた時の山本の表情が、一瞬だけだったが変わっていた。
これはある意味、柴崎だからこそ気づけたのかもしれない。
山本は迷ったような表情を見せた。
「・・・傍に、いたいんです。」
「それはあんたの気持ち。」
柴崎の言葉に肯定も否定もしないことが返事だ。
彼とて、こんな形でもちろん手は出したくないが、
本当のところはわからない、というところだろう。
「後は郁と私に任せな。」
山本は咲と、咲に軟膏を塗る郁に目を向けた。
細められた目は、普段の彼からは想像もつかない。
「よろしくお願いします。」
顔を柴崎に向け、軽く会釈をすると、スニーカーを拾い上げた。
窓に向かう山本に気付いた郁が手を止め、彼の方を向く。
「笠原士長、よろしくお願いします。」
「まっかせなさい!」
小声でそう交わして、郁は親指を立てた。
外をうかがい、窓を開けて足をかける。
「山本。」
小さな声が耳に届き、思わず動きを止めた。
「ありがと。」
山本は窓の外を向いたまま、一瞬泣きそうに、でも笑うようにくしゃっと顔をゆがめた。
それから少しだけ振り返って、ちらりと咲を見る。
「早く元気になれよな。」
そして返事を聞くことなく、窓枠を蹴った。
柴崎が窓辺によると、降りるために使ったロープが器用に外されて下に落ちていくのが見えた。
軽く会釈をして、ロープをつかんで駆けていく山本の顔は、いつも通りの笑顔だった。
柴崎は静かに窓を閉める。
(本当に大事にしたい人、
大事にしてくれる人、か。)
心の中で小さくつぶやいて。
小さな願い