別冊 ー5thー
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「慧さん。」
彼女もこんな顔をするのか、と慧は思った。
困惑した、さみしそうな顔。
その出生からか、彼女は孤独には慣れていた。
否、彼女の場合は孤独と呼ぶより自立だろう。
集団と関わるよりも、ひとりを選ぶ彼女だから。
そんなところがどこか自分と似ていて、こうして傍に置きたいと思ってしまうのかもしれない。
月に一度の読書の日が、いつからかまた再開していた。
どこか吹っ切れたような様子で、彼女なりにケリをつけてきたのかもしれないと思う。
そのくらいできる女でなければ自分の傍には置けないと思いつつ、二十歳そこそこの娘にむごいことをさせている自覚もあり、そんな自分はひどく薄情だとも思う。
だが今日はどこか雰囲気がいつもと違うと、心配はしていた。
彼女が話すのを待ってしまうのも、大人の余裕と言えば聞こえはいいが、薄情さの表れだろうかとも思ってしまう。
(いろんな顔を張り付けすぎたら自分が分からなくなるな。)
慧は思わず心の中で自分を嘲笑った。
「私、休みの日はよく中庭で子どもたちと遊ぶんです。
そこの男の子がね、鬼ごっこしていて捕まえた時に、
なんだかおかしな顔をするから、
どこか痛いの?って聞いたの。
そしたら・・・」
咲はそこまで一気に話して、でもそこで話すのをためらっているようだった。
慧は咲の頭に手を置く。
「泣き始めちゃったんです。
慌てて謝ったんですけど、どうやら事情が違うみたいで・・・。」
優しく撫でていると、彼女はぽつぽつと言葉を紡いだ。
昔弟にしていたころのことを懐かしく思い出す。
「泣きやんで、聞いたら・・・。
シャツを巻くって、しばらくして、私に抱きついてきたんです。
シャツの中には、ひどい痣や火傷のあとがたくさんありました。
私は、痛くないように抱きしめてあげることしかできなかった。
おなかがすいているという彼に、おやつをあげることしかできなかった。
やはり、連絡したほうがいいんでしょうか。
最近、館内で良く秘密基地を作って家出をしようとしているみたいで。」
家出、するつもりだったみたいで。
母のない彼女には、憧れの両親がいる家なのに、
どうしてこんなことになってしまっているのだろうと、
悔しいのだろう。
「児童相談所に、連絡してあげるといい。」
「でも・・・」
「待っている時間はないよ。」
「あのお母さんも、子育てに一生懸命で・・・
悪い人じゃないこともわかっているんです!」
「それでも手をあげてしまうこともあるんだよ。
理性と感情は別だからね。」
咲ははっとした表情になって、顔を隠そうとうつむいた。
彼にもそんなときがあったのかもしれないと、そう思うとたまらなかったのだ。
そんなところが意地らしいところだと、慧は思う。
低い場所にある頭に手をかけ、ゆっくりと自分の方に引き寄せた。
一瞬の抵抗を見せたものの、すとんと収まったそれに、満足げに口の端を上げる。
彼女はこんなに苦しんでいるのに、それで甘えさせられることが妙にうれしいなんて。
ひねくれ者だ