本編 ー4thー
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ねぇ柴崎」
郁の言葉の続きは分かっていた。
「……なに」
それでも無愛想に聞いてしまう。
「行こうよ、咲のお見舞い」
この言葉を、心のどこかで恐れていた。
「咲もきっと、会いたがっているよ。
ほら、柴崎に懐いていたじゃない?」
それには首をかしげてしまう。
「それはないんじゃない?」
「あんた気づいてないの?」
郁は目を瞬かせた。
「いつ頃からだったかなぁ……
よく柴崎のとこ来てるし、話もしてるじゃない。
あたしよりも多いんじゃない?」
それは、自分の手駒にしているからだなど、言えるはずはない。
「だから、行こうよ」
この笑顔の前では、柴崎も無力だ。
廊下は嫌に長く感じた。
怪我の原因のせいか、個室になっている咲の部屋の扉の前で2人は立ち止まった。
郁がちらりと柴崎を見た。
自然に微笑んでいるようにしか見えないけれど、郁は何となく作り笑顔だろうな、と思った。
彼女の作り笑顔はデフォルトだ。
(大丈夫ね)
ノックする。
「はい」
静かな声がする。
からからから、と扉をあけると、ベットで本を開く咲が2人の目に入った。
そして彼女が驚いた顔をして、本が手から落ちて、布団を滑り落ちて、ベットから落ちて、そして。
「柴崎さんっ……」
短く叫んだ。
その言葉に柴崎が驚く。
郁は思わずしてやったり、と笑った。
自分の名前を呼んでくれないのは寂しいけれど、ここは仕方がない、と郁にしては珍しく気を遣って部屋を出た。
……実は小牧の指示である。
「ごめんなさい……」
小さな声が、閉まりかけた扉からすり抜けて、郁の耳を打った。
(相変わらず、不器用な子)
優しく目を細めて、小牧に一応メールでも入れておこうとロビーに向かう。
「な、なに、急に」
一人取り残された柴崎は明らかに戸惑っている。
それをあおるように咲がベットから降りようとするから、柴崎はあわてて駆け寄って彼女を押し戻す。
その手を細い手がつかんだ。
自分にも負けず細い手。
銃を持ち、人を撃ち、本を守り、手塚を守った、手。
「私のために、私をずっとSPから外してくださっていたんですよね」
黒い瞳が、柴崎を見上げる。
振りほどこうにも力が強くて拒まれてしまう。
自分と同じように見えるのに、彼女は違うのだ。
守るものの手なのだと、突きつけられる。
「でも、手塚さんと話して今ならもう会っても大丈夫だと思ったんでしょう?
だからSPのスケジュール変更して私を入れてくれて」
言葉は静かに続いた。
「なのに、こんなことになって、あなたを傷つけた……」
なんと勘の鋭い子だろうか。
だから自分は、彼女を犬にしたのだ。
だから彼女が、どこか自分に似ているから、かわいく思えてしまうのだ。
「本当は真っ先にお礼を言いたかったんです」
でも、こんな素直なところは、自分とはまったく違う。
「貴女を傷つけたのは本当に私の力不足で申し訳なかったと思います。
それでも……私に、あの人を守らせてくれて、ありがとうございました」
優しい音に、柴崎は手を握りしめた。
腕に力を入れると、今度は簡単に拘束を解くことができた。
「……馬鹿じゃないの」
襟元に光る小さなカミツレに、柴崎は目を細めた。
「本当に馬鹿な、チビ。
犬のくせに生意気よ」
震える声に、咲は小さく笑って、はい、と言った。
私たちの絆
