本編 ー4thー
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「咲っ!」
小さな悲鳴のような声が、眠りから引き戻す。
この声は知っている。
自分にとって、かけがえのない、大切な女の子の声。
(でもこんなに大きな声を上げるなんて。)
「毬江・・・。」
ドアに顔を向ければ、泣きそうな顔をしている毬江と、その後ろに小牧がいた。
ぱたぱたと駆け寄ってくる姿に体を起こす。
腹部に痛みが走るのは、まだ仕方がないだろう。
「馬鹿っ!
どんだけ心配したと思ってるの!」
その声の大きさに、個室でよかった、と思う。
のもつかの間。
ぎゅううっと頬をつねられる。
「いひゃいいひゃいいひゃい・・・」
「馬鹿っ!
バカバカバカ!」
「まぁまぁ毬江ちゃん。
相手はけが人だし、ね?」
小牧ががなだめ、ようやく毬絵は手を離した。
ほっぺたがちぎれるところだった、と思う。
のもつかの間。
「ま、毬江!」
彼女が今度は泣き始めた。
円らな瞳からまろやかな頬に涙が次から次へと流れていく。
(お、伯父さんの気持ちが初めて分かった・・・。)
「ごめんごめん、もうしない、気をつける!」
言い方までもがそっくりで、でもそれを気にしている場合ではない。
進藤が謝る姿を過去に見たことがある小牧は早くも爆笑だ。
「嘘でしょ!
咲の馬鹿!!」
「嘘じゃないから、ね、毬江!」
小牧は気を遣ったらしく、震えながら部屋からそっと出て行った。
「この、馬鹿ぁっ・・・。」
ぐすぐすと泣く毬江の手を握り、ただただ謝る。
しばらくすると毬江もようやく落ち着いてきて、ベットサイドに腰掛けた。
「ねぇ咲、あなた女の子なの、分かってる?」
「分かっているよ。」
「分かっているなら無茶しないでよ・・・。」
涙目の毬江はとてもかわいい。
(小牧さんはこんな表情をみたらたまらないんだろうな。)
「いひゃいでふ・・・。」
「今私の話聞いていなかったでしょ。」
「・・・ごめんはひゃい。」
びよーんと伸ばされた頬が解放される。
思わずさするほど痛かった。
「ねぇ咲。
女の子って、守られるだけじゃ嫌だと思うの。」
毬江は部屋から出て行ったあの人を思って、遠くを見た。
何を思い出しているか、何となくわかった。
「私も、私にできることがあるなら、守りたいって思ったの。
咲に出会う前なんだけど、小牧さんが私のせいでひどい目にあったことがあって。」
彼女は気づいていないのだ。
私が毬江と同じ小学校で、小さいときに何度か会ったことがあることに。
小牧さんが拷問を受けたことを、当時から図書館に通っていた私も知っていることに。
でも、それはそれでいいんだと思う。
「私にできることはやりたいって思ったの。
だって、本当に大切な人だったから。」
小牧のことを語るとき、毬江は女になるし、大人になる。
そんな瞬間は好きだけれど、少しだけ寂しい。
「手塚さんが、大切なの?」
唐突な問いかけに、咲は目を閉じた。
しばらくしてから、うなずいて、そして尋ねる。
「女の勘?」
「そうね、あと、親友の勘。」
咲は目を開いて、アーモンドの瞳を見つめる。
そして小さく笑った。
その笑顔がとても寂しげで、毬江は目を細める。
「秘密にしてくれる?」
「いいけど・・・理由を聞いてもいい?」
咲はひとつうなずいた。
指先は首元のカミツレのネックレスに触れて遊んでいる。
やはりこれは、手塚からの贈り物だったのだと毬江は心の中でうなずいた。
「今まで毬江にも教えなかったのには理由がある。
詳しいことは言えないけれど・・・。
小牧さんも、堂上二正も、柴崎士長も、笠原士長も、みんなあの人が嫌い。
大嫌いだから。」
周りのみんなが嫌いな人が愛おしいとは、どんな気持ちなのだろう。
もし小牧が同じ状況だったら、自分はどうしていただろう。
今のように、好きだと、公然と会うことも許されなかったら。
「・・・私は応援するから。」
カミツレを遊ぶ指先が止まる。
「誰が何と言おうと、応援するから。」
黒い瞳は、うつむいたままだ。
「小牧さんも嫌いなんだよ?」
「でも咲はだいすきなんでしょ。」
「もしかしたら小牧さんはどこかで勘付いて、探りを入れるかも。」
「白を切るわ。
女は女優だもの。」
毬江は自信満々に笑った。
咲はようやく顔を上げ、そのまぶしさに咲は目を瞬かせる。
そして、つられるように淡く笑った。
「ありがとう、毬江。」
ありがとう
