本編 ー4thー
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「ねぇ堂上。」
デスクに座ってから書類作成をしている小牧は、一つの疑問に声をかける。
「なんだ。
毬江ちゃんがまた何か聞いてきたのか?」
彼は小牧が抱いている手の疑問は、抱いてはいないらしい。
暗い表情は咲が怪我をしたことを純粋に心配しているのだろう。
その上彼女の過去が放送されたことにも怒りを感じているのだろう。
だから小牧は言おうとしていた言葉を飲み込んでしまった。
(堂上はまっすぐだ。)
学生時代から、ずっとずっと、そうだった。
だから情に篤く、王子様と呼ばれてしまう。
「・・・いや、違うんだ。」
その真っ直ぐな瞳から、俺は目をそらした。
手もとの書類を読みながら、頭の片隅でどうごまかそうかと考える。
堂上は咲を可愛い妹分くらいに考えている。
小牧の恋人であり小さい頃から見守ってきた毬江を、妹のように思っているように。
(いや、きっとそれ以上だ。)
茨木の県展のときだって、嫌がらせを受けている咲をずいぶん心配していた。
自分たちを頼ってくれない彼女に、怒り任せに言葉をぶつけたこともある。
郁とはまた違った意味で、彼にとって咲は大切な子なのだ。
「・・・空太刀なら大丈夫だろう。
命には別条はないと隊長も言っていた。」
さえない小牧の反応を勝手に解釈した堂上は、窓の外を見ながら静かに話す。
「傷は・・・残るだろうが、腹ならそう目に触れることもない。
多少の傷があろうと、それ以上に大切に思ってくれる相手を探せると思えば・・・悪くもないだろう。」
饒舌なのは、彼自身にも言い聞かせるためかもしれない。
心配なのだ。
彼は。
(それなのに、俺は・・・。
毬江ちゃんの親友であるはずの彼女を、俺はどうしてこんなふうにしか見れないのだろう。)
手塚慧が番組内で言っていた言葉。
ー私も何度か会ったことがありますが、優秀な隊士でした。ー
平隊士であり特殊部隊に所属する咲と未来企画を束ねる手塚慧に、職場で接点があるはずはない。
もしあるのだとすれば、手塚慧のような有名人、どこかからか噂が流れてもおかしくないはずなのだ。
今まで2人が接触したことなど、あるはずがない。
なぜ彼はあんなことを言ったのか。
話に信憑性を持たせるためにしては、よく出た嘘だと言うしかない。
咄嗟に思いつくのか、疑ってしまうほど。
(・・・もし咄嗟でついた嘘でないなら?)
次に、彼がテレビで話した日野の悪夢の話。
あの話を、彼はいったいどこで知ったのだろう。
隊員名簿で気づいたのか?
だが同姓同名の赤の他人という可能性は?
彼女に今日会ってから確認したのか?
そんな時間の余裕はSPにはないはずだ。
多少の会話をする時間はあっても、彼女の過去の中でも人生の根幹となる部分を話せるほど親しくなれるほどの時間があるわけではない。
(・・・ではもっと以前に話す機会がやはりあったのか?)
極めつけは袖の赤。
いくら自分をかばったからとはいえ、SPの止血をテレビの出演を控えた手塚慧が、真っ先におこなうだろうか。
山本や、もう一人のSPが止血を行うべきである。
そうでなければ服が血で汚れることなど容易く想像がつくからだ。
その計算をしない男ではない。
だが、袖に血をつけることでアピールするような計算を、咄嗟にできるだろうか?
自分をかばった若い女性を目の前に、流石にそれは人としてできないと信じたい。
(では、彼はなぜ、袖を真っ赤に染めてまで止血をしたのか?)
「おい。」
声をかけられ、はっと顔を上げれば、心配そうな堂上の顔があった。
「大丈夫か?」
「ああ・・・ごめん。」
持ち上がった疑惑は、まだ堂上には言うまいと、小牧は思う。
「いや、構わん。
そろそろ集合時間だ。」
「そうだね。」
小牧は堂上を追うように席を立つ。
ー稲嶺さんが作ってくれた、この場所で、ー
彼女は泣いていた。
毬江と変わらない、二十歳の女の子が、泣きながら言った。
ー泥を、血を被っても、私はここで生きていたい。ー
それから嬉しそうに笑って言ったのだ。
小牧に向かって。
ー毬江が大好きな図書館を、一緒に守らせてください。ー
ようやく心が通じ合えたのだと、勝手に思ったものだ。
少し、堂上に優越感を感じていたりもした。
毬江と同じように、大切な友達だと思ってもらえたものだと。
その彼女をこんなにも容易く疑える自分はずいぶんと冷たい男だ、と思う。
ただ、最悪のパターンは考えておかなければならない、とも思う。
堂上に隠れてため息をついて頭を掻く。
こんな自分が、嫌だった。
小さな疑惑
