本編 ー4thー
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テレビの前に一同が集まっていた。
手塚慧が出演する番組が放送されるのだ。
生放送らしい。
だが、なぜだか手塚慧が現れない。
画面の中はどことなく慌てているようにもみえる。
隣に座る手塚が、無意識に3度目に腕を組みかえているのを見て、小牧は目を細めた。
(あんなことを言いつつずいぶん落ち着かない様子だ)
『さて、それではここでコメンテーターの手塚慧氏の……は?はい?』
その声に、目を離していた小牧も画面に目を戻す。
『スタジオ入りする予定だった手塚慧氏ですが、先ほど局の前で凶器、刃物を持った暴漢に襲われたとのことです』
「どういうっ!」
手塚ががたんと椅子を蹴倒して立ちあがった。
「手塚、座れ。
見えん」
玄田が冷たく言い放った。
ふと顔を曇らせたのは、小牧だ。
「……今日のSPは確か」
柴崎の顔が蒼くなる。
「柴崎……?」
郁が心配するが、なんでもないの、と画面に顔を戻した。
『遅くなりました。 』
ところが、手塚慧が颯爽とした足取りでスタジオに現れた。
手塚の目が、画面に釘付けとなる。
『て、手塚さん!?
病院へ搬送されたとのことでしたが!?』
『情報が錯綜したようですね。
確かに暴漢には襲われましたが、図書館隊のつけてくれたSPが優秀だったので私には怪我ひとつありません』
よかった、と手塚の口から声が漏れた。
彼は聞き逃しているのだ。
“私には”に込められた意味を。
それを敏感に察知したのが、小牧と柴崎だった。
「よかったな」
そんな声が室内でぽろぽろと聞こえ、
「……いえ」
照れたように手塚が返す。
どこか和やかになった空気の中、小牧と柴崎は視線を鋭くしたまま、画面から目を離すことはなかった。
その時、玄田の携帯が鳴る。
「玄田だ。
……ああ、チビだったか」
柴崎が振り返るのと、リポーターが目を見開いたのは同時だった。
小牧はその柴崎の動揺を目の端で追い、同じく玄田を見る。
玄田は2人の思っていることが正しいと、頷く。
すると柴崎は一瞬表情を硬くし、それでも前を向きなおした。
『袖口に血がっ!』
画面の中でリポーターが短く叫ぶ。
手塚慧のスーツの袖口が、黒く変色していたのだ。
中のYシャツの袖は真っ赤に染まっている。
『ああ、これは』
慧が表情を暗くした。
『少しお時間いただいてもいいでしょうか』
リポーターは何が始まるのか分からないが、誰かが指示を出したのだろう。
マイクを持ったスタッフが走ってきて、慧にマイクを渡した。
『ありがとうございます。
この血は、私を守って重傷を負い、現在病院へと搬送されているSPのものです。
止血を施す際に汚れてしまい、皆さんの目に触れることになってしまいました。
気分を害された方がおられましたら申し訳ありません』
手塚慧は綺麗に礼をした。
何をしても様になる男である。
手塚が席を立った。
電話のようだ。
家族だろう。
『ですが、どうしても申し上げたいことがあります。
私を守ってくれたのは、二十歳の女性でした。
私も何度か会ったことがありますが、優秀な隊士でした。
彼女が図書隊に志願したのには理由がありました。
「日野の悪夢」をみなさんご存知でしょうか。
正化11年(1999年)2月7日、メディア良化委員会に同調する政治結社が、当時公共図書館としてシンボル的存在であった日野市立図書館を襲撃した事件です。
12人の死者を出した上、図書館の蔵書も1冊を除き全損するなど未曽有の大惨事となりました。
実は彼女は、この日野の悪夢でご両親を亡くし、両親のように図書館を守ろうと図書館隊へと入隊された女性だったのです。』
手塚は目元を潤ませる。
『そして今、自由のために尊い犠牲となったご両親のように、私を守るため刃を身に受けました。
決して、彼女がか弱い女性であり、力量不足だったからこのような事態に陥ったわけではありません。
彼女は優秀であることは、私もよく知っています。
だからこそ、人通りの多い街頭での暴行に、自らが犠牲になることで……』
そして言葉を詰まらせた。
「わかっててやっとるなぁ、こいつ」
玄田の零れた発言を、誰も否定できなかった。
「……あいつの過去をダシに」
苦々しげに呟いたのは堂上だ。
冷徹なまでの判断を下す男にとって、誰の過去を暴いたところで構わないのだろうと、それによる反響が大きいのであれば使うだけなのだと、知らぬ間に拳を握りしめた。
もちろん咲のことも不安だが、郁は隣の柴崎が心配だった。
顔色が悪い。
唇が震えている。
「柴崎」
細い手に自分の手を重ねた。
「咲なら大丈夫。
あの子、強いもの」
その言葉に、柴崎は俯きながら小さくうなずいた。
『当麻先生の支援団体や良化法反対派がこのように襲撃をした例はありません。
地道に署名を集め、街頭演説をし、ビラを配り、理解を求めて努力されています。
良化隊はどうでしょうか。
茨木の県展でもそうでした。
このような過激団体を全国に持っているのはみなさんもご存じのとおりです』
ぎしりと音を立てて、玄田が背もたれに体重を預けた。
「アクシデントのアピールとしては最大だな。
なんだこの、完成されたシナリオは」
そしてしんみりと呟く。
「しかし……なんだ、もうすこし寝ざめのいい方法はなかったもんか、あの馬鹿」
普段の強気な顔が、珍しく困り顔だ。
今度は小牧の携帯が鳴った。
メールらしい。
「……毬江ちゃん、見ていたか」
堂上が声をかける。
「うん、心配してる。
一般人には病院教えられませんよね?」
「だれだ?」
身うちがいないことを知っているから、玄田は眉をひそめる。
「空太刀の友達です」
「悪いが、目を覚ましたら連絡する。
おい、ついでに進藤に伝えろ」
「了解です」
袖口の赤
