本編 ーzeroー
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柴崎がレファレンスを終え、利用者もその書棚から立ち去った後、咲は柴崎の立っていた辺りを見ていた。
彼女が見ていた本を手に取り、会話の内容を思い出す。
なぜその利用者にこの本を勧めたのか。
なぜ他の本ではなかったのか。
「勉強熱心ね」
声をかけられ、驚いて振り返る。
目の前にいるのは、にっこり綺麗な笑みを浮かべた柴崎だ。
咲は慌てて持っている本を背中に隠した。
「いつも良く見てくれているから、こっちも張り切っちゃうの」
そう言って柴崎は書棚に並んだ本に指を滑らせた。
いつも図書館隊士には「毬江ちゃんと一緒に来る子」と認識されているだろうと思っていてので、自分単体としての存在に関する言葉に咲はなんだか苦しくなった。
その上よく見ている事までバレているなんて、あまりの恥ずかしさに顔が熱くなる。
「あの……レファレンス、とてもお上手でつい聞き入ってしまうんです」
しどろもどろにそう言えば、褒められ慣れている柴崎はまた綺麗な笑顔を返した。
「でも?」
一体何を求められているのか計りかね、咲は首をかしげた。
「小牧二正や堂上二正と比べて、どうかしら?」
柴崎だけでなく彼らを見ていた事もバレていたなんてと、咲は耳まで赤くして俯いた。
どうしようかとチラリと柴崎を上目遣いに確認するが、彼女は流してくれない様だ。
にっこりと無言で微笑んで待っている。
美人の笑顔は、恐ろしい圧力を持つ。
「高校生の、くだらない個人的な感想と思ってください」
早口でそう前置きしてから、また少し考えて言葉を紡ぐ。
「女性らしいきめ細やかな心遣いは素晴らしいですが、もっと幅広い勧め方もありかも知れないな、なんて思います」
細部にまで気を配りすぎる分、自分の目測で勧める本を絞りすぎる。
彼女はそれを遠回しに伝えてきた。
(なるほど、これは素質があるわ。
それに頭もいい)
彼女のコメントは、一度レファレンスを見ていた小牧にも言われた言葉だった。
他の隊員ではあまり気がつくこともない。
柴崎のレファレンスはかなり評価が高いからだ。
毬江の痴漢の一件以来、堂上と小牧が彼女を見る目を変えたので気にしてみたが、成程、と柴崎は納得した。
「さすが、良く見てるわ。
同じことを上司から言われたことがある」
そう言えば、咲は照れたように俯いた。
「でも、人のしていることを評価するなんて、実際にするのとは全く違います」
その言葉から、彼女の憧れが伝わってきた。
「私でよければ、いつでもレクチャーしてあげるわよ。
タダで、とは言わないけれど」
柴崎の言葉に、彼女がぱっと顔を上げた。
眼が見開かれ、眼鏡の奥で煌めいた。
「本当に?」
「ええ」
いつも毬江と小牧に気を使ってひとりになる彼女。
気にするほどの理由もないけれど。
なんだろう、自分とどこか似ているこの子が、放っておけなかった。
お代は何をもらおうかしら
