本編 ーthirdー
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3日目には、咲も書類整理などを手伝えるくらいには回復していた。
隊服さえ見なければ問題はないのだ。
この忙しい時期に寝てばかりはいられないと、動けるようになってからは裏で業務に励んだ。
特殊部隊の人と顔を合わせなくて済むのは、今の咲にとって救いであった。
(毬江にメールしないといけないな)
分かっていた。
でも、送れなかった。
元気だよ、と嘘をつくのもはばかられて。
でも、ありのままを言うと、あの子を穢してしまいそうで。
小牧に会わないのをいいことに、放置していると言わざるを得ない。
毬江も何かあったのかと勘付いているのか、しつこくメールをすることもない。
彼女のその優しさに甘えていることも、また事実。
隊服を見れないため、寮には帰れず、医務室から職場へと通いつつ、山本や笠原が遊びに来てくれるのにも甘え、気づけば県展も終わりに近づいていた。
早朝、身支度を整えていると佐々木が電話を取るのが聞こえた。
「それは良かった!」
その言葉に、咲はカーテンから顔を出す。
電話を置いた佐々木は、咲に満面の笑みを見せた。
「隊長、目を覚ましたそうだよ」
咲は目を見開くと医務室を駆けだした。
「おいおい!
事故に遭うなよ!」
背中から明るい声が追いかけてきた。
手を上げてそれに答え、そのまま玄関まで走り出る。
(でも、どうやっていこう?)
そんなことまで頭が回っていなかった自分がひどく間抜けに思える。
帰ろうか、と悩んでいたところ、視界に車が滑り込む。
「乗れよ!」
山本がにやりと笑って運転席から顔を出した。
「行くんだろ?
隊長のところ!」
咲は頷いて助手席に飛び乗った。
「聞いたか、第一声」
「ううん、なんて言ってたの?」
「これしきのことで騒ぐなバカどもが!」
おどけた山本に咲が目を見開き、それから、不器用に笑った。
彼女は甘いものを前にすると素直に笑えるのに、人が絡むとどうも苦手だった。
居てもたってもいられないのか、助手席でそわそわとする彼女に、初めて年相応のものを感じた。
この子はまだ、守ってあげなければならない者なのだという思いが、確信に変わる。
病院に着くと駆けだす咲。
「走るなよー」
言っても無駄だと思いつつ、後ろを歩く。
彼女は待ち望んでいたのだ。
これほどまでに。
「隊長ッ!!」
病室に駆けこんで叫ぶ咲に、包帯だらけの玄田は嬉しそうに笑った。
「チビ!
よくやった!!」
上体を起こそうとして、いてててて、と呻くので、咲は慌てて駆け寄る。
横で折口がおかしそうに笑っていた。
「私、私っ!!」
寝たきりの隊長の手にすがりついて、咲は泣き崩れた。
「何泣いてんだ馬鹿!
俺は生きてるぞ!
そんな死んだみたいな顔するな!」
泣きつく咲をなけなしの力で振り払って、その頭をかいぐった。
「てめぇが奴らを撃ったんだろ?
よくやった。
経験も浅いのに、よく撃てたな」
「そうよ、貴方がいなかったらどうなっていたことか」
折口も目に涙を浮かべている。
「でもっ、私が、もっと、ちゃん、と、撃て、たらっ!
もっ、と、早く、脅せていた、らっ!」
「初めての一対一の対戦であれだけできたら上出来だ。
それに早くお前が姿を現していたら、お前自身が撃たれる可能性も高い。
どっちも犬死する羽目になる。
よく耐えた、よくやった。
ほら、顔見せろ」
咲はなんとか立ち上がって、玄田の顔を見る。
折口がそんな咲を後ろから抱きしめ、頭を撫でた。
「泣くな、チビ。
胸を張れ。
お前にしか出来ないことをお前がやったんだ。
なのに、なんっつう顔してんだ」
「だって、だって、隊長がっ」
「もう大丈夫だ。
心配いらん!」
その逞しい笑顔に、咲は泣きながら頷いた。
「それから、おい山本。
あの話は本当か?」
後ろで満面の笑みを浮かべる山本に、玄田は不思議そうに問いかける。
「本当っすよ。
たぶん、今それどころじゃないのか、うまくいったか……」
「じゃあうまくいったことにする!」
どこまでもポジティブ。
にやりと笑う玄田に、咲は目を瞬かせる。
「空太刀、もう大丈夫だな?」
咲は首をかしげる。
そして、あっと思い出した。
目の前の玄田は、訓練服をはおっているのだ。
「なんだ、俺のせいだからな。
連絡した時に、緒方にこっぴどく叱られた」
頭を掻いて困った顔をする玄田に、咲は泣きながら笑顔を浮かべた。
「くそっ、泣くか笑うかどっちかにしろチビ!」
照れた玄田の怒号に、病室に笑いがはじけた。
猛獣、生還
