本編 ーthirdー
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すとんと、咲は元の位置に腰を下ろした。
まだ胸の中で罵倒が渦巻いている。
今ならいくらでも言えた。
止める方が難しいくらいだ。
戻ってきたらしい手塚も、咲の隣に腰を下ろす。
「あんまり無茶するな。
進藤一正の心臓がいくつあっても足りない」
手塚としては今の親子喧嘩まがいを見ていないものだから、下から見ていたときの心配をそのまま告げただけなのだが。
「手塚士長って、本当に空気読めませんよね。
ここは落ち着いてやれとだけ言うべきところですよ」
完全に怒りに震えている咲の流れ玉を喰らうことになってしまったらしい。
『敵は美術館側に集中するつもりだ!』
『……歯止めが利いていない』
『良化隊の攻撃が最終段階に入りました。
味方に犠牲者を出しても、それを盾に押し込むつもりです』
咲は立ち上がった。
小牧がそれに気づいて、問うように視線を向ける。
咲は小牧を見下ろし、口を開いた。
「下には一人でも人員が必要です」
「だめだ」
小牧は即答した。
「どうしてですか?」
咲が騒音に負けないよう、怒鳴った。
『撃つことをためらうな!
各自の生命の防衛を、最優先とする』
「聞こえるだろう。
下は激戦だ!」
彼の目は、今、目の前の咲を見ていた。
痛いほどに、見てくれていた。
(だから、私の先に居る毬江を思ってしまうんだ)
もちろん、自分の心配をしてくれているのは分かる。
でも、それ以上に、彼の一番はいつも毬江なのだ。
「激戦だから行くんです。
人が足りないんですから。
小牧二正も分かっているはずです」
この屋上に残ったメンバーから回すのに、誰が適任か、小牧には確かに分かっていた。
残っているのは小牧の他に、熟練狙撃手の高島の他に、手塚と防衛部が2人。
他のメンバーは皆、下に降りた。
ここには最低限狙撃と、下の状況把握に必要なメンバーが残っているのだ。
(最低の4人を更に削らなければならない。
3人でもなんとか乗り切るために、ここに残すべきは……)
分かっているけれど、何かが邪魔をしていた。
いつも、どこに居ても、心に引っかかるのは、大切な毬絵だった。
ここで咲を下ろせば、あの子が、泣く。
だが彼女の高い狙撃能力は手塚を軽く凌ぐ。
「行け!」
小牧の向こうに居た高島が鋭く叫ぶ。
今ここでは彼がリーダーなのだ。
小牧に逆らうことは許されないし、逆らう理由もない。
甘い自分を、一言で切り捨ててくれた彼に、頭を下げるべきで。
それでも。
「……ごめん。
生命の保護を最優先で頼む」
長めの命令に、咲は敬礼をした。
「了解!」
小さな背中を見送る小牧は、手を握りしめる。
(ダメな上司だな)
そう言っても、きっとあの子は、あの子たちは、首を振ってくれるんだろうな、と思い、視線を激戦に戻した。
「東口が手薄だ!」
銃を撃つ傍ら、上から見て、無線に指示を出す。
それが今、すべきこと。
あの子が生きる(泣かない)為に
