本編 ーthirdー
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「先に入っておいで」
脱衣所でかけられた言葉に、咲は首を振った。
「気にしないでください」
そして笠原の耳元に口を寄せた。
「ダミー、持ってきたんです」
見張っていたら笠原がなにされるか分からない。
だからと言って自分の服だけ持って中に入ったら、笠原の服がなにされるか分からない。
ナイロン袋に入れたそれを持って風呂場に入る。
案の定、出てきたら着替えはなくなっていた。
同じ場所に捨てられているのだろうか。
(今度は堂上二正に見つけられる前に見つけないと)
だが相手も馬鹿ではないだろう。
こちらが置いたままにしていることに、違和感も覚えているはずだ。
早めに着替えて髪を乾かし、懐中電灯をポケットに入れる。
「ではちょっと行ってきます」
笠原の方を向いて声をかけると、腕を掴まれた。
「一緒に探すよ」
心配そうに下げられた眉。
腕を掴む手をはずそうと手を添え、力を入れた。
「大丈夫ですから」
「大丈夫じゃない!」
荒げられた声と、ぎゅっと握りしめられる腕に、咲は顔をゆがめた。
「ごめん……」
慌てて笠原は手を離し、
「でも、ごめん!」
もう一度咲の手を握り、荷物を掴むと脱衣所を飛び出した。
「あ、あの、笠原士長!」
無言まま、笠原は部屋に戻る。
ずいぶん怒っているようだ。
「あんた馬鹿でしょ!」
咲は荷物を抱えたまま固まる。
「いつまでそうやって独りで全部抱え込むつもり?」
その権幕に、咲は言葉がでない。
こんなに怒られたことなんて、生まれてから一度もないから。
「そんなの許さないんだから!」
なら貴方はどうなんですか、と言いたい。
洗濯物が濡らされた時、独りで泣いていただろうに。
(あ、違う、この人には王子様がいるから)
そう思って、ふと、昨夜自分の手を掴んだ山本を思い出す。
仲間だと、そう言ってくれた、彼を。
「聞いているの!?」
「は、はい!」
「分かったら一緒に探しに行くよ!」
「えっ……」
「返事!」
「はい!」
手を掴んで、引っ張ってくれる。
その手は温かくて柔らかくて、山本の手とは全然違う。
それでも、きっとこの手も、彼の言葉を借りれば、大切な大切な。
