本編 ーthirdー
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降りかかった水。
今日二度目だ。
昼のトイレが一度目。
「あら、ごめんなさい。
大丈夫?」
後ろで笑う業務部の女性。
周囲でどっと笑いが起きた。
(謀ったな)
隣に座る笠原が目を見開いて固まってしまっているのが気の毒だ。
防衛部の人達も顔がこわばっている。
明日は我が身と思っているのだろうか。
練習に遅れたのを気にさせまいと、一緒に食事にきたのが裏目に出た。
夕食のたぬきそばが薄まって冷めてしまったかもしれない。
視界の端で、堂上が眉を寄せたのが見える。
その正面に座っていた小牧は背を向けていたため何が起こったのか分かっていないが、すぐに堂上から話が行くだろう。
こんな話を聞かせて、心配させることがあまりに申し訳ない。
俄かにいらだちが抑えられなくなる。
「御心配には及びません。
むしろ大丈夫ですか?」
口からそんな言葉が出ていた。
その先に続けたかった言葉をぐっと飲み込む。
ーお水ひとつ、まともに運べないなんてー
相手は何を心配されているのか分かっていないようだ。
食堂も静まり返って、言葉の続きを待っている。
(仕方がない)
精一杯の笑顔を見せる。
無理に笑顔を作るなんて、ずいぶん成長したものだ。
(そう考えると柴崎士長は本当に尊敬に値する)
「お疲れのご様子でしたので」
その一言が、食堂の緊張を解いた。
ざわめきが走ると言った方がいいかもしれない。
でも、その中で徐々に会話が戻っていくのを感じ、ほっとする。
「……頭おかしいんじゃないの」
業務部の女性はそう吐き捨てるように言うと去って行った。
彼女と一緒に、業務部が食堂から引きあげていく。
ふぅ。
思わずため息をつく。
「咲……?」
心配そうな顔の笠原に、咲は顔を向け、微笑んだ。
「みなさん、県展前で大変なんでしょうね。
私達も早く食べて休みましょう」
こんなとき、相部屋は面倒だと思う。
ずっと心配そうな彼女を見ていなければならない。
心が、痛い。
たぬきそばはすっかりぬるくなってしまっていた。
