本編 ーzeroー
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人とかかわるのは大嫌いだった。
誰かのために自分の感情を動かしたくなかったから。
いなくなった誰かのために泣くなんて、
そんな無益なことはしたくないから。
本は大好きだった。
そこにはたくさんの知識と、
自分とは隔離された世界での物語が、
いつも夢を見させてくれるから。
いつしか人とほとんど話さなくなった。
私の周りにいる人は、私と同じ時をただ過ぎているだけの物だった。
「送信完了」
いつからか小説を書くようになった。
ネットで知り合った人と、メールで交換する程度の、極個人的な範囲での趣味。
今日は月に一度の小説配信日。
それはいつかあの人達の夢が叶うことを祈る瞬間。
私にとって周りの人は、モノだった。
機械と何も変わらない。
ただの動くモノだった。
でも、あの場所だけは、おとぎの国のようだった。
大好きな本のあふれる、あの場所の人は、どうしてか生き物に見えていた。
「笠原、これ知ってる?」
篠崎の見ている画面を覗き込む。
そこにあるのは。
「本と君のいる世界……?」
郁が読んだのはメールのタイトルだ。
そう、柴崎が見せたのはメール画面だった。
本文はというと、ずいぶん長いようだ。
「何これ、物語?」
「そう、それも図書館隊のね」
その言葉に目を見張る。
「でも、これは単なる個人のメールでしかないから、問題はないんだろうけど……」
柴崎のところには、一緒に働いている女性隊員から送られてきたらしい。
「なかなかいい話なのよ、これ」
勧められるままに読んでみる。
優秀で努力家なのだけれど、頑なで、直情的で、真面目過ぎるのが玉に傷な図書館隊員の話だ。
「なんかあんたに似てるでしょ、この主人公」
柴崎の言葉に、少しだけ迷ってうなずいた。
優秀なところは似てはいないが、
その性格面や、持っている気質のようなものが、なんとなく似ているように思う。
「なんかこのシリーズ、メールで回っているみたいなのよ。
誰が発信源かなんてのもわからないままね」
「図書館隊の誰かが書いているのかな?」
「さぁどうかしら」
「違うの?」
「内部の人間がこんなことするとは思えないわ。
まるで、私たちを味方するような、こんなこと」
柴崎の言葉にうーんと唸ってしまうが、そんなことよりも。
「……続き読みたい」
柴崎はため息をついて口角を上げた。
「わかった。
また続き来たら教えるわね」
見えないつながり
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